特定非営利活動法人ツバルオーバービュー

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1. 気候変動の影響によって移住を余儀なくされる人々

2014年、気候変動の影響によるフィジーで初めてとなるコミュニティー全体の移住が行われた。長年に続く海面上昇と豪雨により、家屋や畑などへの海水の浸水が広がり、その結果フィジーで2番目に大きい島であるヴァヌアレヴ島の沿岸部にあるヴゥニドゴロア村の26世帯は、内陸部の高台へ移住を余儀なくされた。これにより、それまで漁業で生計を立てていた村人は、農業で生計を立てることとなり、彼らが長年培って来た漁業に関する伝統的な知恵や文化は失われつつある。このような非経済的な損失(Non-Economic Loss)についての対応も検討して行かなければならないと、COP23で開催されたイベントでパシフィック教会協議会のフランシス・ナモウモウ氏は訴えた。

また、他のサイドイベントでは、2016年2月、南半球でこれまで発生した中で最大級のサイクロン・ウィンストンの被害によって、フィジーのオバラウ島の沿岸部にある9つの村の約3000人が、内陸部に移住することになっているという報告も聞かれた。

さらに、11月14日に開催された太平洋地域環境計画事務局(SPREP)、ツバル政府、バヌアツ政府共催のサイドイベントの基調講演ではツバル国首相のエネレ・ソポアンガ氏が「移住に関しての議論が進んでいるようだが、ツバル国民は移住することを望まない」という内容のスピーチを行い、今回のCOPにおいて、透明性を確保した上で、島しょ国が直面している「損失と損害」に対する議論の進展を求めた。また、同席したツバルのフナフチ環礁のアイランドチーフであるシリンガ・コフェ氏は「強風や海面上昇によって、海岸浸食や海水の浸水被害が起き、飲み水や作物に影響が出ていることが常態化している。また、近年はサイクロンによって、家屋の浸水や倒壊の被害が出ている。水や食料がなくなったら、我々は移住する以外選択肢はないのか?」と島民が直面している気候変動の影響について訴えた。その上で、長年ツバルで活動を続けてきたNPO法人 ツバルオーバービュー代表理事の遠藤秀一氏が立案した適応策「Funafala eco island」プロジェクトを、島民の選択肢として紹介した。

「Funafala eco island」プロジェクトはフナフチ環礁南部にある浅瀬が広がるフナファーラエリアを嵩上げして海抜の高い新たな土地を造成し、そこへ島民を移住させる計画である。この計画はサイドイベント終了後も会議関係者の間で大きな話題となった。※cop23でのツバルオーバービューの活動報告

国内での移住だけではなく、国境を越えて移住することになった場合への対応についても、先住民や環境NGOだけではなく、国際機関もサイドイベントで議論を進めていた。あるサイドイベントでは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連移住機関(IOM)、国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)なども、気候変動によって移住を余儀なくされている人々が増加している状況を踏まえ、損失と損害に関するワルシャワ国際メカニズムのタスクフォースにおける気候変動避難民に関する議論に対して、各機関の経験や課題をインプットし、この問題に国際的に対応できる仕組みを構築するための方法論が検討されていた。

初めて島しょ国を代表してフィジーが議長国を務めた気候変動枠組条約第23回締約国会議(COP23)[2]は、Pacific COP(パシフィックコップ)と呼ばれ、南太平洋を中心に、世界中の島しょ国から参加者が例年より多く集まった。そのため、南太平洋における気候変動の影響やその影響を受けている人々の声が多く聞かれた。

気候変動の影響によって移住を余儀なくされる人々は、人口比で見ると南太平洋では大きな割合を占めている。しかし、アフリカ、南アジア、東アジアでも多くの人々が同じような境遇にいる。2008年から2016年に天候に関連する災害によって、移住を余儀なくされた人は、2億人を超えている[3]

COP23では、このような気候変動の影響に脆弱で、緊急的な対応が必要な人々を支援する適応や、資金、損失と損害[4]の議論を進展させることを期待されていたが、残念ながらそれらの点については大きな進展を見ることなく終わった。

2. 注目を集めたトランプ政権誕生後の米国の動き

今回の会議は、米国トランプ政権によるパリ協定離脱表明後、初めて開催されたCOPであった。そのため、米国がCOP23での交渉を静観するのか、もしくは、交渉をぶち壊すのか、その動向に注目が集まった。

この点において今回、特に注目されたのは損失と損害に関する議論である。米国を始め、オーストラリアやカナダ、EUといった先進国が損失と損害を支援するための資金に関する議論[5]を進めることに反対し、島しょ国や後発発展途上国が望むような内容の決定をまとめられずに終わる、という事態に陥った。妥協として決定したのは、来年5月に開催する補助機関会合(SB)の開催期間中に、資金に関する議論も含めて損失と損害を支援するための専門家による対話(Suva Expert Dialogue)を開催する[6]ことであった。[7]

トランプ政権になってから、気候変動を否定し、パリ協定離脱を表明した、米国では、連邦レベルで気候変動対策を進めないかのような政策がとられ、国連への分担金や緑の気候基金への拠出も停止した。損失と損害を支援する資金に関しては、トランプ政権以前から米国もその他の先進国も消極的ではあった。しかし、今回はオーストラリアやカナダ、EUといった先進国が、強固に反対する気候変動に懐疑的なトランプ率いる米国政府と足並みをそろえて、損失と損害に関する資金に対する議論の進展を最小限に留めるような決定をしてしまったことは極めて残念と言わざるを得ない。

そのような中、米国の州や市、産業界、大学、NGOが「We Are Still In」というイニシアティブを立ち上げ、米国の連邦政府がパリ協定を離脱表明しても、パリ協定を遵守するため気候変動対策に取り組むことをCOP23でアピールしたことは、明るい動きであった。[8]

また、米国に最も近い国であるイギリスとカナダが中心となり、石炭火力発電からの撤廃を目指す連合の設立を発表した。これは、石炭産業を基盤とする米国トランプ政権への強い牽制であるとともに、パリ協定のもと脱炭素社会の実現に向けた大きな一歩といえる。現在連合には、マーシャル諸島、デンマーク、フィンランド、イタリア、ベルギー、スイス、ニュージーランド、ポルトガル、エチオピア、フランス、メキシコなどが参加しており、来年のCOP24には約50 カ国の参加を目指すとしている[9]このような国際的な動きがあるにもかかわらず、これから国内外で石炭火力発電所を増設しようとしている日本政府の動きは、COP23でも環境NGOから批判を浴び、すでに常連となっている「化石賞」の2年連続受賞を果たした。[10]

3.  COP23の成果

まず、2018年に、パリ協定の実施に先駆け、パリ協定のもと各国が掲げている国別目標を強化していくため、世界全体の気候変動対策についての進捗確認を行う促進的対話(フィジー語のTalanoa=能動的かつ包括的で透明性がある、という意味を持つ言葉を冠してタラノア対話と名付けられた)、その具体的な進め方についてまとめた文書を採択したことである。[11]

また、その他の2018年に合意が予定されているパリ協定の運用ルールについては、今後の交渉のベースとなる180ページから成る文書が示された[12]

京都議定書の時は、運用ルールの詳細が決る前年には、主要な論点について、政治的な合意がなされていた。しかし、今回のCOPでそこまでの合意はできなかったうえ、進展があったパートは、排出削減対策に偏り、島しょ国をはじめとする途上国が切望する適応、資金や損失と損害について大きな進展がなかったことは非常に残念である。

パリ協定の運用ルールは、2018年に開催されるCOP24で決めることになっている。この1年で取り組まなければならない課題は山積している。2018年の1月にはタラノア対話の実施が始まる。9月には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の1.5℃特別報告書が発表される。これまで科学が政治を後押ししてきたように、IPCCの特別報告書とタラノア・ダイアローグが両輪となり、各国の気候変動対策を後押しし、パリ協定の運用ルールの議論も加速させ、年末にポーランドで開催されるCOP24で地球の平均気温を1.5℃未満に抑える道筋を確保する運用ルールの合意、という大きなゴールに繋げていかなければならない。

現在、天候に関連する災害によって、1秒に1人の割合で移住を余儀なくされる人が出ている[13] 島しょ国をはじめ気候変動の影響に脆弱な人、そしてその影響によって移住を余儀なくされる人々には一刻の猶予もない。COP23で島しょ国が何度も訴えていたように、私たちは同じカヌーに乗っている。世界が一丸となり早急にパリ協定を実施して、地球環境というカヌーの沈没を防がなければいけない。

(執筆:川阪京子、編集:遠藤秀一)


[1] 詳細はこちらの記事をご覧ください。「COP23での活動報告

[2] 2017年11月6日から18日までドイツのボンで開催された。

[3] Internal Displacement Monitoring Center and Norwegian Refugee Council, “GRID 2017 Global Report On Internal Displacement”, (2017),

[4] 気候変動の影響に適応できる範囲を超えて出てしまうもののこと。「損失」は文化や生物多様性など取り返しのつかないもののこと。「損害」は建物や家屋など修復可能なもののこと。

[5] COP19の決定では、その時設立することが決った「損失と損害に関するワルシャワ国際メカニズム」の役割の1つとして、締約国は資金を提供も含めた「損失と損害」の支援を検討していくことになっていたが、その後ずっと議論が具体化に向けて進展しないまま来ていた。今回は気候変動の悪影響に脆弱な国を代表したフィジーが議長を務めるPacific COPであったため、この議論が加速することが期待されていた。

[6] その成果を、2019年に行われるワルシャワ国際メカニズムの執行委員会の見直しのために準備される「損失と損害」のための資金に関するテクニカルペーパーに盛込むことになった。

[10] Climate Action Network International, “ Developed Countries, Japan and Kwait all win big, for being bad

[11] FCCC/CP/2017/L.13, ” Fiji Momentum for Implementation ”, (2017)

[13] Internal Displacement Monitoring Center and Norwegian Refugee Council, “Global Estimate 2015: People displaced by disasters”, (2017)