COP16はカンクン合意を採択し、閉幕
メキシコの有名なリゾート地、カンクンに、世界約190カ国の代表が集まり、2010年11月29日から12月10日まで、気候変動枠組条約第16回締約国会議(COP16)と、京都議定書第6回締約国会合(CMP6)が開催されました。
京都議定書の第2約束期間に関する議論を行う議定書の特別作業部会(議定書AWG)と、京都議定書の下削減義務を負っていない国の対策を議論する気候変動枠組条約の下での特別作業部会(条約AWG)という2つの場で、それぞれ2013年以降の国際的な枠組みに関する決定をすべく、連日激しい交渉が行われました。昨年開催されたコペンハーゲン会議とは違い、どこかで誰かが作った秘密の合意文書案も、一部の国だけによる秘密の会合もありませんでした。
メキシコのパトリシア・エスピノーサ議長の強力なリーダーシップと透明性の高い、そして、丁寧な進行のもと、これまでの約5年間の議論をまとめた文書をベースに最後まで首脳や大臣たちが粘り強く徹夜の交渉を続けました。最終日を過ぎた12月11日早朝(現地時間)、議定書と条約の両方で、来年の南アフリカ、ダーバンでの最終合意への基礎となる決定、「カンクン合意」を採択し、会議は閉幕しました。
先進国の削減数値目標や途上国の削減対策については、今回合意できず、南アフリカのダーバン会議で合意を目指すことになりました。(議定書、条約の両方で、先進国の削減目標と途上国の削減行動についてはこれまで発表したものをまとめた文書を作成することになっています。)しかし、「カンクン合意」では、特に途上国の適応策や支援に関して重要な決定がいつくかなされました。主なものは以下のとおりです。
【カンクン合意】
<条約のもとでの2013年以降の枠組みに関する決定>
http://unfccc.int/files/meetings/cop_16/application/pdf/cop16_lca.pdf
・ 産業化以前に比べ地球の平均気温の上昇を「2℃未満」に抑えることを視野に、世界全体の温室効果ガスの大幅な排出削減が必要であることを確認。
・ 長期目標については、「定期的な見直し」を行い、2013年から2015年に行う第1回目の見直しでは、地球の平均気温の上昇を「1.5℃」に抑えることなどを含め検討する。
・ 気候変動の影響への適応策を強化するための「カンクン適応フレームワーク」の設立。適応策の計画、優先付け、実施や、気候変動の影響、脆弱性などの評価を行う。
・ 後発発展途上国に対する国家適応計画の作成と実施を手助けする「プロセス」の設立。
・ 適応策の実施を促すための専門的な支援を行う「適応委員会」の設立。委員会の詳細なルールについては、COP17で決定。
・ 気候変動の影響に最も脆弱な途上国における気候変動の影響による「損失と損害への対応を検討する作業プログラム」の設立。
・ 資金、技術的な面での国際的な支援を求める途上国の対策を記録する「登録簿」を設立する。
・ 国際的な支援を得た途上国の温暖化対策は、条約のもとでのガイドラインにそって、国レベルと国際レベルの「両方」で、「測定・報告・検証」される。
・ 国際的な支援なしに行った途上国の温暖化対策は、条約のもとでのガイドラインにそって、対策を行った国が「測定・報告・検証」を行う。(国際的な測定・報告・検証は行われない。)
・ 適応策のための「緑の気候基金」を新設。条約のもと設置される24名(先進国から12名、途上国から12名)からなる理事会によって運営される。途上国の理事メンバーは、国連の地域グループと小規模島しょ国、後発発展途上国から選出される。世界銀行が管財人となるが、3年後に見直しをする。
・ 技術的なニーズや、気候変動対策や適応策のための技術移転に関する政策と専門的な問題点についてアドバイス等を行う「技術執行委員会」と国、地域、分野別、交際的な技術ネットワークや組織などを支援する「気候技術センターとネットワーク」から成る「技術メカニズム」の設置。
・ 条約AWGをさらに1年継続して行い、COP17に結果を報告する。
<議定書のもとでの2013年以降の枠組みに関する合意>
http://unfccc.int/files/meetings/cop_16/application/pdf/cop16_kp.pdf
・ 議定書AWGは、第1約束期間終了と第2約束期間の開始の間に空白が生まれないように、できるだけ早くCMPで決定するよう作業を完了させることに合意。(COP17で合意することを示唆)交渉テキスト(FCCC/KP/AWG/2010/CRP.4/Rev.4)をベースに継続して議論を続ける。
・ これまで先進国が発表した削減目標値をまとめた文書を留意する。「ただし、この文書にある情報は、締約国の立場と京都議定書の第21条7項の締約国の権利を損なうものではない。」という脚注付き。(この脚注は、日本やロシアが主張して入ったもの。)
・ IPCC第4次評価報告書の一番低いシナリオにおいて先進国全体に求められる削減幅(2020年までに1990年比で25〜40%削減)に入るよう、先進国の排出削減量引き上げを要請。
長期目標において「2℃未満」に言及されたこと、また、ツバルのような国が求めていた「1.5℃に抑えること」を見直しで検討することになったこと、そして、米中の間で合意が難しいとされていた条約の下での「途上国の削減行動の測定・報告・検証」に関して決定がなされたことは大きな前進といえます。また、適応や技術、資金においてもこれから細かいルールや資金源など決定しなければならないことはたくさんありますが、途上国が進展を求める項目において、その意見が一定反映される形で、それぞれ新しい枠組みができたことは評価できます。「カンクン合意」をベースに、COP17に向け、2013年以降の枠組みの決定が目指されます。
●最後まで交渉の進展にひびいた日本の発言
先進国の目標は京都議定書の第2約束期間において更なる排出削減を実施するという形で確保し、アメリカ、中国などその他の国の削減対策は、条約の下で作る新議定書で確保し、その2つの国際的な法律を持って、世界全体の排出量を削減に転じさせていく2013年以降の枠組としようというのが現在の国際交渉の流れです。
そんな中での「日本の2020年の目標(25%削減)はコペンハーゲン合意の下で表明したものであり、日本は、いかなる状況や条件においても、京都議定書の下の附属書B(排出削減目標が書いてある表)に我々の目標を掲げることはないということを改めて表明する。」という日本政府主張は、大きな波紋を呼び、カンクン会議の交渉の進展に大きく影響を及ぼしました。
日本の「京都議定書の第2約束期間の設定は受け入れられない」という強固な交渉姿勢は、議定書AWGにおける京都議定書の第2約束期間における先進国の排出削減数値目標の議論の進展を阻むだけではなく、条約AWGにおいても、アメリカや中国などの排出削減目標や行動に関する議論が進展しない状況を生み出しました。日本の主張が、最も進展しなければならない2013年以降の枠組みにおける各国の数値目標に関する交渉全体を止めてしまったのです。
これにより、日本は、各国メディアや政府から批判されるだけではなく、交渉に最も後ろ向きの発言をした国にNGOから送られる「化石賞」を2度受賞しました。また、12月9日付けのファイナンシャルタイムズには、日本が会議を妨害しているとする意見広告が掲載されました。
「現行の京都議定書で削減義務を負う国におけるエネルギー起源のCO2排出量は全世界の排出量の約3割に過ぎず,削減規模という点で十分でない。」そのため「全ての主要国による公平かつ実効性のある国際的枠組みを構築する新しい一つの包括的な法的文書の早期採択が必要。」という日本の主張はわかります。しかし、今の交渉の流れで、その主張を何度も繰り返すだけでは、何の進展もありません。むしろ、最も重要な削減目標の議論を止めてしまうだけで、逆効果になっています。
「カンクン合意」の京都議定書の決定では、先進国が発表した削減目標をまとめた文書をつくることになっています。そこには、「日本は反対しているよ」という趣旨の脚注が付けられています。日本政府はそれをもって自分の主張が反映されたと報告しています。
ですが、日本の今回の交渉姿勢によって失われた交渉時間は大きかったのではないかと思います。ツバルの副首相のステイトメントにもあるように、ツバルのような国には、「とある大きな先進国の政治的な後退や、どの国が気候変動問題に対して責任があるのかを追及するために、交渉を人質に取られる時間とお金はないのです」。日本のかたくなな交渉姿勢がなければ、カンクン合意の内容はもっと進展したものになったのではないでしょうか。世界の流れは、議定書と条約それぞれで決定を目指す、2トラックアプローチです。COP17では、日本政府に、交渉を止めるのではなく前進させる柔軟な交渉姿勢を期待します。
<写真:©IISD> (執筆:川阪京子)
参考文献・資料
・ UNFCCCウェブサイト
http://unfccc.int/2860.php
・ COP16オンデマンドウェブキャスト
http://webcast.cc2010.mx/grid_en.html
・ Earth Negotiation Bulletin (ENB)
http://www.climatenetwork.org/
・ 外務省 カンクン会議の概要について
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/kiko/cop16_overview.html
・ 気候ネットワーク KIKO
http://www.kikonet.org/theme/kiko.html
・ 地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)COP16通信
http://casaletter.blog52.fc2.com/blog-category-4.html
・ 気候行動ネットワーク(CAN)
http://www.climatenetwork.org/