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気候変動ニュース

カンクン会議終了後、日本国内の温暖化対策関係の動きが騒がしくなっています。

報道などによると、民主党が17日にまとめた「地球温暖化対策の主要3施策に対する提言」が、12月3日に、次の国会での継続審議となった地球温暖化対策基本法案の内容を大きく後退させるものとなったことがわかりました。

地球温暖化対策基本法案には、2020年までに1990年比で25%削減という中期目標を達成するための手段として、新しく盛り込まれた主要3施策、「国内排出量取引制度」、「地球温暖化対策税」、「再生可能エネルギー全買い取り制度」があります。今回の民主党がまとめた提言では、この主要な3施策の内容を弱め、また、その導入を延期することになっています。特に、「国内排出量取引制度」(法案では国内排出量取引制度を創設となっている)の検討を事実上凍結するというのです。

これに対し、気候ネットワークと環境エネルギー政策研究所は、「日本の温室効果ガス排出量の半分は、わずか150の事業所が占めて」おり、「大口の排出者の排出を確実に減らしていく国内排出量取引制度は、25%削減の核となる政策」であるとし、今回の提言の内容は、「民主党のマニフェスト及び今年3月の閣議で地球温暖化対策基本法案を決定した際の内容を覆し、大きく後退させようとするものだ」と緊急声明を共同で出しています。また、WWFジャパンも、「3つの主要施策の形骸化や導入延期は、マニフェストに期待を寄せた国民に対する裏切りと言っても過言ではありません。」という声明を発表しました。

排出量取引制度の検討を凍結する理由には、税などの負担に加え、国内排出量取引制度が導入によってさらに負担が増えるとして、その導入に強く反対している一部の大口の排出産業へ配慮や、カンクン会議で、先進国の削減数値目標や途上国の削減対策については、今回合意できなかったことが挙げられています。

日本政府が、カンクン会議で「現行の京都議定書で削減義務を負う国におけるエネルギー起源のCO2排出量は全世界の排出量の約3割に過ぎず,削減規模という点で十分でない。」そのため「全ての主要国による公平かつ実効性のある国際的枠組みを構築する新しい一つの包括的な法的文書の早期採択が必要。」という理由で、京都議定書の第2約束期間において削減数値目標を持つことに強く反対したことは記憶に新しいです。

そして、その発言が、カンクン会議での2013年以降における削減目標の議論の進展に大きな影響を及ぼしたこともCOP16報告の記事で書いたとおりです。

その日本の立場を強く押していたのが、日本の一部の産業界です。石油連盟 、(社)セメント協会、電気事業連合会、(社)電子情報技術産業協会 、(社)日本化学工業協会、(社)日本ガス協会、一般社団法人 日本自動車工業会、日本製紙連合会、(社)日本鉄鋼連盟は、12月9日(カンクン会議終了間際)に、「COP16に向けての緊急提言」を発表しています。

そこには以下のようなことが書かれています。(以下一部抜粋)

『現在、開催中の COP16 の冒頭において、日本は、「京都議定書の延長は、地球環境の改善をかえって遅らせる可能性すらある」「日本はいかなる条件付けがなされようとも京都議定書の延長にはくみしない」と、真に世界全体の温暖化を防止する上での正論を明確に述べ、私たち産業界は、この発言を強く支持しているところです。』

また、日本経済団体連合会の米倉会長は、COP16の結果について「京都議定書の単純延長論に与しない日本政府の一貫した交渉姿勢に敬意を表するとともに、COP17に向けた更なるリーダーシップを期待したい。」というコメントを発表しています。

カンクン後の数週間の国内の状態をみると、日本政府が、京都議定書の第2約束期間において削減数値目標を持つことにかたくなに反対したのは、カンクン会議では2013年以降における削減目標について何の合意もさせず、それをもって、国内対策を後退させ、一部の産業界の利益を守るためだったのではないかと思えてなりません。

実際、カンクン会議における日本の交渉態度について、ツバルの副首相は、ツバルオーバービューのインタビューにあるとおり、「日本に対しては、今回特に国益と国内企業保護を重要視する姿勢が目立った。これは国際社会の進歩を遅らせる要因となり、日本は国際社会に対して非協力的とみなされざるを得ない。」と述べています。

カンクン合意は、削減目標の議論について合意はできなかったなど多くの課題が残されていますが、COP17での完全合意の基礎となる合意です。この合意をもってCOP17での完全合意に向け、国内対策を前進させることはあっても、後退させる理由になるものではありません。

また、COP17に向けた交渉の中で、カンクン会議と同じことを繰り返す時間はありません。日本のかたくなな交渉姿勢のために、これ以上、貴重な交渉時間を無駄にはできません。何度も言うようですが、世界の流れは議定書と条約のそれぞれで2つの決定をする2トラックです。日本が、本当に、早期に(COP17が最も早い機会です)気候変動の防止につながる2013年以降の枠組みを採択したいと考えているのであれば、現在の交渉姿勢を転換しなければなりません。

そのためには、主要3施策などの国内対策を前進させ、日本が掲げた2020年1990年比25 %削減という目標を達成するために、2013年以降も本気でこの問題に取り組んでいく姿勢があることを示すことがとても大切です。そして、2トラックという世界の流れの中、日本をはじめとする京都議定書の削減目標を持つ国々が、第2約束期間において削減数値目標を掲げることで、中国・アメリカなど主要な排出国の削減行動の強化を促していくような、前向きで柔軟な交渉姿勢で交渉に望むことが必要です。

(執筆:川阪京子)

参考資料・文献

・気候ネットワーク・環境エネルギー政策研究所 緊急合同声明 民主党の地球温暖化主要三施策の後退を許さない 国内排出量取引制度の早期導入は必須
http://www.kikonet.org/iken/kokunai/2010-12-16.html

・WWFジャパン 地球温暖化対策「主要3施策」の実効性ある導入を!
http://www.wwf.or.jp/activities/2010/12/956922.html

・WWF ジャパン 民主党「地球温暖化対策の主要3施策への提言」を受けて、政府に対する声明
http://www.wwf.or.jp/activities/2010/12/956821.html

・ 日本経済団体連合会 COP16の結果について米倉会長コメント
http://www.keidanren.or.jp/japanese/speech/comment/2010/1211.html

・ 石油連盟 、(社)セメント協会、電気事業連合会、(社)電子情報技術産業協会 、(社)日本化学工業協会、(社)日本ガス協会、一般社団法人 日本自動車工業会、日本製紙連合会、(社)日本鉄鋼連盟によるCOP16に向けての緊急提言
http://www.fepc.or.jp/news/__icsFiles/afieldfile/2010/12/09/press1209.pdf