Cop17ダーバン総括
4℃上昇回避の道筋は残されたものの、ツバルにとっては厳しい結果
11月28日から南アフリカ共和国のダーバンで開催されていたCOP17は、12月11日午前6時22分、京都議定書を2013以降も継続し、気候変動枠組条約の下、アメリカや中国・インドなど全ての国の対策を定める新しい法律を、遅くとも2015年のCOP21で採択し、2020年に発効・実施することを決定し、閉幕しました。予定の会議期間を約2日延長するという、これまでの国際交渉会議で最も長い会議でした。
予定していた最終日を大幅に超えても合意が成立する様子がなかったことから、交渉を中断し、再開会合を半年後にドイツのボンで開催するという話も流れました。飛行機の都合で大臣をはじめとする各国の代表が次々に帰国し、会場の解体作業も進む中でのタイムリミットぎりぎりの合意でした。
2年前のコペンハーゲン会議で目指した全ての国が参加する2013年以降の枠組みについては、残念ながら今回も合意には至りませんでした。最終的には、アメリカ、中国、インドの意見を反映し、2020年発効・実施の全ての国の対策を定めた新枠組みを遅くとも2015年までに決定、としたものの、地球の平均気温の上昇を産業革命から1.5℃に抑えるため、全ての国が参加する枠組みを今すぐにでも採択し実施してほしいと訴えるツバルのような島しょ国には厳しい結果となりました。交渉が決裂し、議論する場もないという結果になってしまうよりはまだいいですが、今回の結果は行動が10年近く遅れることを意味しており、10年という年月はツバルのような国には途方もなく長い時間です。
せめてもの救いは、京都議定書の継続が決定したことです。2013年1月1日から次期約束期間を開始することが決定しました。しかし多くの課題が残されたままです。削減目標や京都メカニズムのルールなど重要な点は来年のカタール、ドーハ会議(2012年11月26日から12月7日まで開催)で決定することになったうえ、その後、改正手続きも踏まなければなりません。これだけのフェーズをスムーズに乗り越えていけるか疑問もあり空白期間が生まれる可能性も否定できません。すでに離脱しているアメリカに加え、新たにカナダが離脱を表明。日本とロシアも2013年以降不参加という立場です。また、地球の平均気温の上昇を1.5度や2℃未満に抑えようとすると、京都議定書の第2約束期間だけの削減では不十分で、京都議定書の下で削減目標を持たない国々を含む全ての国々による排出削減が必要です。
しかし、その全ての国による対策を定めた新しい法律の採択が2015年で、その実施が2020年(もちろん、前倒して実施する余地も残されていますが)ということを考えると、それまでの期間、引き続き京都議定書の下で法的拘束力のある削減目標と対策が少なくとも実施される体制を確保した意味は大きいと言えます。また、これまで中国やインドが自分たちの削減対策を受け入れる条件として京都議定書の継続を強く求めてきたことを考えると、京都議定書の第2約束期間があることで、2015年までに採択する全ての国が参加する枠組みにおいて、より多くの削減を中国やインドなどの新興国から引き出すこともできます。そういった意味では成果があったと言えるでしょう。
また、今回の合意では、4℃の気温上昇を回避するための道筋をかろうじて残すことができました。ここであきらめず、2013〜2014年に発表されるIPCCの新しい第5次評価報告書の結果を踏まえ、1.5℃未満に気温上昇を抑えられるよう、全ての国に大幅な排出削減と、温暖化の被害に対する適応措置への支援を根気強く求めていく必要があります。
そのためにも、日本政府は、京都議定書の第1約束期間の6%の削減目標を確実に達成する必要があります。第2約束期間への不参加や次期枠組みの交渉の期日が伸びたことを理由に、この目標をうやむやにすることは許されません。また、鳩山政権のときに表明した2020年25%削減目標については、原発の依存度を下げることを理由に、目標を下方修正することはもちろん、国際的な排出権取引などにも頼らず国内対策を中心に、25%削減を達成する方針を決定し実施することを強く要望します。
ダーバン会議での主な決定について
【気候変動枠組条約の下での決定】
・ダーバン・プラットフォームの決定
http://unfccc.int/files/meetings/durban_nov_2011/decisions/application/pdf/cop17_durbanplatform.pdf
新しい法律に関する交渉は、遅くとも2015年のCOP21での採択、2020年に発効・実施を目指し、今回新しく作られた「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会」で行われることになります。バリ会議で設立された現在の「条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会(AWGLCA)については、さらに1年延長し、来年のカタール会議で終了することになりました。
・ カンクン合意の実施—緑の気候基金
http://unfccc.int/files/meetings/durban_nov_2011/decisions/application/pdf/cop17_gcf.pdf
条約の新しい資金メカニズムとして昨年のカンクン会議で設立が決定された「緑の気候基金」は、その基本設計に合意し運用開始の目処が立ちました。この点は評価できますが、肝心の資金源をどうするかについては、具体的に示されませんでした。
【京都議定書に関する決定】
http://unfccc.int/files/meetings/durban_nov_2011/decisions/application/pdf/awgkp_outcome.pdf
来年の2012年までしか削減目標を設定していない京都議定書。2020年までに1990年比で25~40%削減することを目指し、第2約束期間を2013年1月1日から開始することが決定しました。この約束期間を2017年12月31日まで(5年間)にするのか、2020年12月31日まで(8年間)にするのか、各国の削減目標、京都メカニズムのルールなどについては、来年のカタール会議で決定することになりました。
・ 新しい温室効果ガスの追加
http://unfccc.int/files/meetings/durban_nov_2011/decisions/application/pdf/awgkp_ghgsectors.pdf
第2約束期間で削減する温室効果ガスに、三フッ化窒素(NF3)が新しく追加されました。液晶ディスプレイなどを製造する際に使用されています。用途が限定されていて使用量が他のガスに比べ少ないですが、増加傾向にあると言われています。IPCCの第4次評価報告書によると、二酸化炭素に比べ、GWPは17,200倍(100年値)と大きく、寿命は740年です。
・ 森林の吸収源と京都メカニズム
森林の吸収源について
http://unfccc.int/files/meetings/durban_nov_2011/decisions/application/pdf/awgkp_lulucf.pdf
京都メカニズムについて
第2約束期間では、第1約束期間と同じように、森林による吸収量を削減としてカウントでき、排出量取引やクリーン開発メカニズムなどの京都メカニズムについても利用できます。第2約束期間における森林に関するルールが今回決定され、議定書の第3条4項の下での追加的な森林活動について、湿地に関する活動(wetland drainage and rewetting)が追加されることになりました。京都メカニズムに関するルール(例えば、京都議定書の第2約束期間に参加しない日本が、第2約束期間もクリーン開発メカニズムを利用できるのかなど)については、今回まとまらず、来年のカタール会議で決定することになりました。
(執筆:川阪 京子)