1998年から南太平洋に浮かぶ島国ツバルに軸を置いた活動を行っています。最新ニュースの提供、気候変動防止を主題とした講演会への講師派遣・写真展へのパネル貸し出しを行う他、鹿児島の体験施設「山のツバル」では、スマートな低炭素暮らしの実験に挑戦しています。

気候変動ニュース

『フランケンストーム』(勢力が怪物のように巨大な嵐)化した大型温帯低気圧『サンディ』は、2012年10月末、不運なことに満月の高潮も重なり、アメリカ北東部に壊滅的な被害を及ぼした。NASAが撮影した宇宙から見た『サンディ』の映像は、その規模の大きさを物語っている。(ビデオ:CNN)カリブ海諸国やアメリカ、カナダにおける『サンディ』による死者は、2日までの集計で計175人に達し、米国内だけで少なくとも106人。このハリケーンによる経済損失は、最大で500億ドル(約4兆円)に達する可能性があり、災害による損失額としては、過去最大規模の一つとされている。

被災地の窮状は依然続いている。サンディからの復旧もままならないニューヨークやニュージャージーは、季節外れの大雪に見舞われ、再度避難勧告がでる惨事。一部では、サンディから約2週間経っても停電が続き、またニューヨーク市はガソリン不足の深刻化によりガソリンの購入規制を発表した。

同時期に、イタリア北部『水の都』として知られる世界遺産都市ベネチアでは、連日の豪雨で洪水が起きていたところに高潮が重なり、11月11日ついに本島周囲の水位が通常より149センチ上昇し、市内の7割が冠水した。(ビデオ:ロイターニュース
1872年の観測以来6番目となる水面上昇である。ベネチアでは、地球温暖化による被害拡大に備えた高潮対策として、可動式の防護壁を建設する『モーゼ計画』が進んでいるが、稼働は2014年になる見通し。

去年の秋まで続いたラ・ニーニャにより、2011年は日本の猛暑からヨーロッパの大寒波、北米で続いた竜巻被害、また世界各地での大洪水そして干ばつなど異常気象の大変多い年となったが、2012年になって深刻さを増している。特に北米における災害被害が大きかった今年、アメリカ人の気候変動に対する意識が刻々と変わっていっている。最新の世論調査によると、今年の猛暑や異常気象を経て、「地球温暖化は現実に起こっている」と信じるアメリカ人の数が過去2年半で13%増え、2008年以来初めて、過半数のアメリカ人(54%)が「地球温暖化は、主に人間活動によって起こされている」と答え、その数は今年3月から8%の増加を見せた。(『地球温暖化は人間由来、アメリカ人も認める』参照)

そんな渦中ハリケーン『サンディ』が北米を襲ったが、アメリカのメディアは当初『サンディ』と『気候変動』を全く関連づけなかった。『サンディ』が押し寄せていた一週間の間に、米国主要新聞社により94の『サンディ』関連記事が出されたが、『気候変動』、『地球温暖化』、または『異常気象』という言葉を言及した記事はひとつもなかった。(As ‘Frankenstorm’ Barrels Towards East Coast, Newspaper Coverage Ignores Connection To Climate Change参照)

それに対し、『サンディ』到来前日の10月29日環境活動家たちは、『異常気象』と『気候変動』の関連性を認めることを求めてNYタイムズスクエアを歩いた。(October 29 News: Activists Connect The Dots On Climate Change And Extreme Weather In Times Square参照)結局一番影響力があったのはこのハリケーンそのもので、アメリカ国民ひとりひとり、また保険業界や政界までにも影響を及ぼした。それまで『サンディ』と『気候変動』の関連性を報道しなかったメディアは気候学者や気候科学者の見解を記事にし、またオバマ、ロムニー共に気候変動に関してはひたすら沈黙を守るスタンスをとった今回の大統領選挙戦でも、結局気候変動に対して比較的積極的なオバマが勝利を収めることとなった。その後の世論調査によると、実際に5人に2人のアメリカ人が、「『サンディ』とそれに対するオバマの対応は、今回の投票において重要な、または一番重要な、要素となった」と答えている。(Exit Polls 2012: Hurricane Sandy Was A Deciding Factor For Millions Of Voters In The Election参照)

オバマ大統領は、再選勝利演説の中でこう語っている。「将来私たちの子供たちが住む場所は、借金の重みに苦しまず、不平等により衰弱するのではなく、温暖化の進む惑星の破壊的威力に脅かされない、そんなアメリカであって欲しい」、と。(Obama: ‘We Want Our Children To Live In An America That Isn’t Threatened By The Destructive Power Of A Warming Planet’参照)

『サンディ』の到来により国連本部が3日間閉鎖してから約一週間が経った11月9日の国連総会では、バン・ギムン国連事務総長も「気候変動による異常気象はすでに『新しいノーマル』であり(つまりもう度重なる異常気象は『異常』というより、これがこれからの『通常』の気候パターンなのだと思わなければならないところまできており)、米北東地域に壊滅的な被害をもたらした『サンディ』は、世界がもっと環境に優しい方策を追求しなくてはいけないという教訓である」と述べた。(Climate change “new normal,” lessons from Sandy: U.N. chief参照)

電気やガスが止まって6日目、ニューヨークに住む16歳の少女までがこう言った。「骨まで貫通するような寒さで体が麻痺しそうな感覚に襲われながら、この惑星でどんな将来が私を待ち構えているのか、今とても不安です。また激しい嵐が来たら、私の家族はどこにも逃げられず行き場を失うかもしれない。こんなに不安定なところに来年家族を置いて大学に行くのが怖いです。(中省略)数々の命を奪ったこんなに大きな嵐が来ないと私たちの国のリーダー達が気候変動の現実を認識できなかったことは本当にがっかりで、残念です。気候変動に関して、モルジブなど遠いところでの影響については聞いたことがあるかもしれないけれども、ここニューヨークでも、気候変動は今こそ私たちの現実なのです。」(In The Wake Of Sandy, A 16-Year Old Climate Activist Speaks Her Mind参照)

ツバルでは、一年で潮位が一番高くなるキングタイド時には膝まで水位が上がることがあり、住居は浸水し、陸上の植物にも塩害の影響を与える。その光景は今回のベニスに似たものがある。異なるのは、ツバルで海面が上昇する現象は今回のような突発的な異常気象でも地盤沈下の影響でもなく、事態がすでに日常化している、という点だ。膝まで水位が上がるのは年に数回にしても、地下の淡水層に海水が及ぶことはもっと頻繁に起こっており、ツバル政府の調査によると、井戸水だけでなく、国の60%のプラカ芋(ツバル人の主食)までもが既に塩害を受けている。又、大々的に報道されることは少ないが、太平洋諸国では年々ハリケーンの数と規模が増しており、その被害は決して小さくない。

今回の『サンディ』で私たちが心しなければならないのは、環境家、気候学者、気候変動活動家たちが長年かけて繰り返し訴えてきた、「ツバルをはじめとした太平洋諸国やモルジブ、バングラデシュなどが話題の中心となる気候変動の影響は、決して遠い世界のものではなく、また遠い将来のものでもない」ということだ。『サンディ』は、今回のニューヨークのように、このような現象が私たちが住む先進国でいつ起こってもおかしくない、ということを象徴しているのである。実際に具体的な対策をしなければ甚大な物理的・経済的被害を負うことになるかもしれず、数々の命が失われ、様々なことが手遅れになるかもしれないことを、残念ながら今回の『サンディ』は明らかにした。私たちは、これらを『彼らのこと』ではなく、『私たちのこと』として、今度こそ真摯に受け止めなければならない。

他参考文献:

文:濱川 明日香(Tuvalu Overview副代表理事)