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気候変動ニュース

photo by((c)IISD)

「交渉プロセスは救われた。しかし、島しょ国を救うには長い厳しい道のり。」

カタールのドーハで行われたCOP18。一時、交渉決裂や交渉延期の噂も流れたが、大臣達の徹夜の交渉の末、会期を一日延長し12月8日の夜、ドーハ合意(Doha Climate Gateway)を採択し閉幕しました。

この合意によって、京都議定書の第2約束期間が2013年1月1日から2020年12月31日までの8年間始まることとなりました。また、2015年に全ての国が参加する新しい国際的な枠組みを決定するための作業計画も決定し、2013年以降もこの交渉プロセスを続けて行くための形式は整えることができました。

しかし、肝心の削減量は、島しょ国が求めている地球の平均気温を1.5℃未満に抑えるのに科学が必要としている削減量には、大きく不足しているままです。

1.足りない削減量

IPCCの第4次評価報告書によると、地球の平均気温の上昇を2℃未満に抑えようとした場合、先進国全体で2020年には90年比25~40%削減が必要であり、1.5℃未満に抑えようとする場合は、2020年には90年比で45%削減が必要としています。

京都議定書では、第2約束期間が継続するものの、不参加を表明している日本、ロシア、ニュージーランドなど以外の先進国全体で2012年からの8年間で1990年比18%削減を確保したにすぎません。

また、2015年に決定予定の全ての国が参加する新しい国際的な枠組みに関する議論においても、各国が掲げている削減量の総量は、地球の平均気温の上昇を1.5℃未満に抑えるために科学者が必要だとしている削減量との間に大きなギャップがあります。

今後予定されている、京都議定書の継続期間と、全ての国が参加する新しい国際的な枠組み、それぞれの削減量を更に深堀するための議論で、1.5℃未満達成のために必要な削減量とのギャップを埋めていく必要があります。

2.見えない長期的な資金の流れ

国際的にも削減が進まず、温暖化が顕在化してきている現在、その影響を受ける国々では、温暖化の悪影響に対する適応策の実施は現実的な話となってきています。同時に、途上国において、温暖化対策を進める為の資金も必要です。

3年前のCOP15では、これら途上国支援のために、先進国の義務として、2020年までに官民合わせて年間約1000億ドル拠出することが合意され、その後、これを誰がどのように拠出するか議論が続けられています。適応策のための資金を供与する「緑の気候基金」についても、昨年のダーバンでは、その基本設計ができ運用開始の目処が立っています。しかし、今回の会議でも、イギリス、ドイツ、デンマークなどが具体的な数値を示したものの、結局義務的な目標として、先進国による資金額は決定しませんでした。

ドーハ合意ができて、議定書の第2約束期間が継続し、温暖化防止には全く足りないながらも何らかの国際的な対策が継続して行われること、2015年の新たな国際的な法律の決定に向けて全ての国が同じテーブルに座って検討する道筋があることは、2015年や2020年に向けてまだ希望をつなげていると言えるかもしれません。

しかし、ツバルのような温暖化の影響を最も受けやすい島しょ国にとって、この合意は、温室効果ガスの排出削減量の議論も長期的な資金の議論も、新しい国際的な枠組みが決まる2015年まで結論を先延ばしにされ、実質的には、その枠組みが発効する予定の2020年までの8年間は、今までより少ない参加国による京都議定書の第2約束期間の対策しか受けられない厳しい状況を意味します。

最後に、ドーハ合意採択後、島しょ国を代表して発言したナウルの大臣の言葉を紹介します。

“Those who are indifferent need to open their eyes. Those who are obstructive and self-serving need to realize that we are not talking about impacts on how comfortable your people may live, but weather or not our people will live.

We need an outcome of this process that protect most vulnerable among us. The outcome today provides little more than gateway to a long path. There is a fork in the path. We need to take a correct turn as we walk this path. Or this process will collapse and our nations will disappear.”

<日本語訳>

“無関心な人々はその目を開く必要があります。交渉を妨害する利己的な人々は、私たちが、あなた方の快適な生活への影響について話しているのではなく、私たちが生きるか死ぬかということを議論しているということを認識する必要があります。

(中略)

私たちは、このプロセスにおいて、最も脆弱な者を守るための成果を必要としています。今日の合意は、長い道筋の入り口にすぎません。その道筋には幾つもの分岐点があります。我々がこの道を歩いて行く中で、我々は正しい方向に曲がる必要があります。そうしなければ、このプロセスは崩壊し、私たちの国は消えてしまうでしょう。”

原文:2012年12月8日 条約の締約国会議(COP)/議定書の締約国会合(MOP)の閉会のための全体会合

各国政府は、このナウルの言葉をしっかり受け止め、2015年よりも早い合意を目指し、交渉に望むべきである。

執筆:川阪 京子

【以下、追記(2013年1月15日)】

ドーハ合意(ドーハクライメイトゲートウェイ)の主な内容

【CMP決定】

1,京都議定書に関する補助機関会合(AWGKP)

京都議定書附属書I締約国の更なる削減に関する補助機関会合の決定(Outcome of the work of the Ad Hoc Working Group on Further Commitments for Annex I Parties under the Kyoto Protocol)
http://unfccc.int/resource/docs/2012/cmp8/eng/l09.pdf

ドーハ会議ではこれまで積み残しになっていた第2約束期間の長さや、第2約束期間に参加しない国もクリーン開発メカニズム(CDM)など京都メカニズムの削減クレジットを獲得・譲渡できるか、削減余剰分の繰り越しをどうするかなどを決定し、京都議定書改正案を採択しました。これによりAWGKPは終了しました。

しかし、今回採択された改正京都議定書が正式な国際法として動き出すには、締約国の4分の3の国の批准が必要で、その批准作業にどれだけ時間がかかるか、また今回の改正議定書の附属書Bに明記された国が批准をするか未定です。

<主な決定事項>
改正京都議定書の概要

排出削減目標 1990年比で少なくとも18%削減(日本、カナダ、ニュージーランド、ロシアは不参加)
削減対象ガス 二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、HFCs、PFCs、SF6、NF3(三フッ化窒素)
約束期間 京都議定書の第2約束期間は2013年1月1日から2020年12月31日までの8年間

・削減量を科学が求める2020年90年比25~40%削減レベルまで引き上げるために、遅くとも2014年(IPCCの第5次評価報告書が発表される頃)までに削減目標について再検討する。

・2014年4月30日までに、削減可能性、2020年までの最新の温室効果ガス排出予測、排出削減目標の達成に関する進展状況など削減量引き上げに関する情報を提出する。それを2014年前半に行われる大臣級のラウンドテーブルで検討し、CMP10で検討するために事務局はその報告書を作成する。

・京都議定書の第2約束期間における削減目標を持たない国もクリーン開発メカニズム(CDM)のプロジェクトを実施することができるが、その削減クレジットの国際的な取引は、調整期間を除いて、京都議定書の第2約束期間の削減目標を持つ国しかできない。

・適応基金の資金源としてCDMの削減クレジット(CER)に課されていた2%の課徴金を、割当量(AAU)の国際的な取引や共同実施の削減クレジット(ERU)の発効等にも拡大して課す。

・第2約束期間の削減目標を持つ国は、第1約束期間における削減余剰分の繰り越しに関しては、第1約束期間の割当量の2.5%まで共同実施の削減クレジット(ERU)とCDMの削減クレジット(CER)を繰り越しでき、割当量単位(AAU)については第1約束起案のAAUの2%まで国際的に取引できる等という上限が設けられた。

・オーストラリア、EU、日本、リヒテンシュタイン、モナコ、ノルウェー、スイスは、第1約束期間の削減余剰分を第2約束期間に繰り越さないことを宣言した。(うち日本だけ第2約束期間不参加。)

【COP決定】

◆条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会(AWGLCA)

1. バリ行動計画の実施に関する決定(Agreed outcome pursuant to the Bali Action Plan)

http://unfccc.int/files/meetings/doha_nov_2012/decisions/application/pdf/cop18_agreed_outcome.pdf

2007年のバリ会議で設立されたAWGLCAの議論は、一部資金や気候変動の影響による損失や被害に関する部分の議論を除き、SBI やSBSTA等で議論を継続する事等が決定し、今回の会議で終了することになりました。

<主な決定事項>

○先進国の緩和

・科学的及び技術的な助言に関する補助機関(SBSTA)で作業プログラムを作り検討していく。COP19で進展を報告し、COP20で結論を報告。
○途上国の緩和

・実施に関する補助機関(SBI)で作業プログラムを作り検討してく。COP19で進展を報告し、COP20で結論を報告。
○途上国の森林減少と劣化による排出削減(REDD+)の主に資金に関する議論

・資金があれば、ワークショップ2回開催を含む作業プログラムを実施。作業プログラムは、COP19で終了。

○資金

・短期資金については、先進国全体に対し、少なくとも短期資金の年間平均レベルの金額を2013年から2015年まで提供するため更に努力することを奨励する。
・長期資金に関する作業プログラムは1年延期。

・COP19で、長期資金に関する閣僚級の対話の開催。

2. 適応能力を強化するための気候変動の悪影響に最も脆弱な途上国における気候変動の影響による損失と被害への対応に関する決定(Approaches to address loss and damage associated with climate change impacts in developing counties that are particularly vulnerable to the adverse effect of climate change to enhanced adaptive capacity)

http://unfccc.int/files/meetings/doha_nov_2012/decisions/application/pdf/cmp8_lossanddamage.pdf

気候変動の影響が顕在化する中、ゆっくり進行する事象(海面上昇、気温上昇、海水酸性化、氷河の後退、塩類化、土地や森林劣化、生物多様性の損失、砂漠化など)や気候変動の悪影響に最も脆弱な途上国における気候変動の影響による損失と被害に対応するために、来年のCOP19に、国際的な組織を立ち上げることが決定しました。

<主な決定事項>

・COP19で国際組織を立ち上げる。

・来年末に開催するSBI39までに、専門家会議の開催とSBI39で検討するためにその報告をとりまとめる。また、SBIで検討するための非経済的な損失に関するテクニカルペーパーと、条約内外の既存の国際的なアレンジメントにおけるギャップに関するテクニカルペーパーの準備を行う。

3.長期資金に関する作業プログラムに関する決定(Work programme on long-term finance)

http://unfccc.int/files/meetings/doha_nov_2012/decisions/application/pdf/cop18_long_term_finance.pdf

2010年から2012年までの短期の基金に関しては、先進国全体で途上国に対し、300億ドルの資金援助がありましたが、2013年以降の長期の資金については、3年前のCOP15で合意された先進国の義務として、2020年までに官民合わせて年間約1000億ドル拠出することを誰がどのように実施するか議論が進められてきました。しかし、今回の会議では、具体的な金額や拠出方法については決まりませんでした。

<主な決定事項>
・作業プログラムの1年延期を決定。2013年末に終了。

・議長は2名指名。(1名は先進国から。もう1名は途上国から。)来年のCOP19に検討結果を報告。2013年3月21日までに長期資金に関する意見を事務局に提出。

◆強化された行動のためのダーバンプラットフォーム特別作業部会(ADP)

1,ダーバンプラットフォームの進展に関する決定(Advancing the Durban Platform)

http://unfccc.int/files/meetings/doha_nov_2012/decisions/application/pdf/cop_advanc_durban.pdf

2,作業計画に関する決定(Planning of Work)

http://unfccc.int/files/documentation/submissions_from_parties/adp/application/pdf/adp_adv_uneditedconclusions_07122012.pdf

全ての国が参加する枠組みを検討するダーバンプラットフォームの特別作業深いでは、2015年での新しい枠組みを採択に向けた作業スケジュールが決定しました。ダーバンプラットフォーム特別作業部会では、2015年の採択を目指し全ての国が参加する新たな枠組みを検討するワークストリーム1(WS1)と、2020年前の削減量の増加について検討するワークストリーム2(WS2)の2つの会議に分かれて検討することになっています。

ドーハ合意によって、京都議定書の第2約束期間を検討していたAWGKPとバリ行動計画の実施を検討してきたAWGLCAが終了し、ADPの下、2015年に採択に向け、全ての国が参加する新しい枠組みの本格的な交渉に移行していくこととなり、交渉は新しいフェーズに入りました。

<主な決定事項>
ADPの作業スケジュール

2013年(COP19) 2014年(COP20) 2015年(COP21)
ADP 4月、6月、9月、11月 6月、12月 5月、12月
WS1 RoundTableとWSを開催 12月までに交渉テキスト案をまとめる 5月交渉テキスト準備→12月決定
WS2 RoundTableとWSを開催

・COP18CMP8で国連事務総長が発表した2014年に首脳級の開催を歓迎。
・2013年は4回(4月、6月、9月、11月)ADPを開催する。4月と9月については予算があれば開催する。

・2014年、2015年は少なくとも2回開催する。

・必要であれば会議を追加開催する。2014年の会議については2013年末までに、2015年の会議については、2014年末までに決定する。

・WS1もWS2も、2013年は、ラウンドテーブルとワークショップを開催する。

執筆:川阪 京子