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気候変動ニュース

カタールのドーハで行われていたUNFCCCのCOP18(国連気候変動枠組み条約第18回締約国会議)が約2週間の激論の末、2012年12月8日「ドーハ・クライメート・ゲートウェイ」を採択して幕を閉じた。今年は、地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出抑制に関して、世界で唯一法的拘束力を持つ国際協定であった京都議定書の第一約束期間が終了するため、2013年以降の枠組みを定めなくてはならない、極めて重要な年となる。約200カ国から、4356人の政府関係者、3956人の国連及び国際機関関係者、683人のメディア関係者など、計9000人程の参加者が集まった。COP会議がOPEC国で行われるのは今回初めてで、一人当たりの二酸化炭素排出量が世界最大であり、しかも排出量を削減する公的約束をしていないカタールが、この節目となる会議を主催することに対して、批判的な声は強かったようだ。期待の高かった3年前のコペンハーゲン(COP15)が落胆に終わってからここ数年、COP会議に対する期待も薄くなっていた中行われた今回の会議だったが、合意内容は決して充分ではないものの、1日の会期延長をし、なんとか京都議定書の延長など他、いくつかの決議を採択した。

公式には、7つの会議が並行して行われ、各会議が論点を絞って議論する。今回着目されていた主要課題に取り組むキープレーヤーとなったのは、以下3つの作業部会だ。

  • AWG-KP(京都議定書の特別作業部会)
  • AWG-LCA(国連気候変動枠組条約の特別作業部会)
  • ADP(ダーバン・プラットフォーム特別作業部会)

今回の各会議における作業部会の議論の内容・経緯、また決議内容についてはWWFがわかりやすく説明している。

『2012年【COP18/CMP8】国連気候変動ドーハ会議』

『【COP18報告】3つの作業部会と市場メカニズムの将来をめぐる議論』

『COP18終了!「ドーハ・クライメート・ゲートウェイ」採択される』

今会議は、去年の南アフリカ・ダーバンで行われたCOP17での議論内容や決定事項をベースに議論が継続された。去年合意された『ダーバン・プラットフォーム』では、1)2015年までに2020年以降の新しい国際枠組みに合意することと、2)京都議定書の第2約束期間を設置すること、が決定された。これを受けて、今回のCOP18では、大きく分けて、1)2020年までをどうするか、2)2020年以降をどうするか、というところが最重要ポイントとなった。とても複雑で多岐に渡る今会議での論点だが、最重要課題にフォーカスして要約した今会議の目的、そして決議事項は以下のとおり。

今会議での主要課題・目的
  • 先進国に排出削減を義務付ける京都議定書の第2約束期間の内容の具体化
  • 2020年以降の新枠組みに関して、2015年までの作業計画を採択
  • 2100年までの気温上昇を産業革命前に比べて2℃未満に抑える為に必要とされる各国の削減目標引き上げ、またはそれに向けての努力・具体策の検討
  • 先進国による途上国への資金・技術支援に関して、内容の明確化・具体化
今会議の決議事項
  • 京都議定書を来年以降も8年間継続し、2013—2020年を第2約束期間とする
  • 2020年以降の新枠組み構築に向けての作業計画
  • 2015年までに中身を固めることになっていた京都議定書に続く新体制について、2014年のCOP20までに交渉文書の素案を作成し、15年5月までに文書をまとめ、同年12月のCOP21で合意
  • 2020年までの温室効果ガス削減目標の引き上げについて、各国が来年中に2014年の作業計画を国連に提出
  • 資金援助については、先進国は2013−15年に、少なくとも2010−12年と同じレベルの拠出努力(約300億ドル)を促すこととする

もともと京都議定書は、1997年京都で開かれたCOP3で、2008年から2012年の期間中に、先進国全体の温室効果ガスの合計排出量を1990年比にして少なくとも5%削減することを目的に定められた。しかし、京都議定書の下では先進国しか削減を強いられないため、中国やインドなどのトップ排出国は、発展途上国という理由で削減義務がない。これに加えて、先進国でありながら大量排出国のアメリカが離脱しているため、世界の排出量の半分を担う3国が削減努力をしないということだ。今会議最終日になって、2013—2020年を第2約束期間とすることが決まったものの、以上のことを受けて、日本、カナダ、ロシア、ニュージーランドなどが不参加となり、結果参加表明したのはEUやノルウェー、スイス、オーストラリアなど一部の先進国に留まった。これら参加国の総排出量は世界総排出量の15%にも満たず、ツバルや他太平洋諸国など各島国から成るAOSIS(小島嶼国連合)からは非難と落胆の声が響いた。

日本は2020年までに1990年比で25%削減という公約はしているものの、去年の原発事故を受けて、国内での試算によると、2020年までの削減が5—9%にしか満たないだろうという予測を出している。それに加えて、先進国の一員でありながら京都議定書第2約束期間に不参加ということで、削減努力に対する意欲の低さが、非難の対象となっている。さらに閉幕日を一日延長して各国の閣僚・大臣が徹夜で今会議のアウトプットを練り直した最終夜、日本の長浜博行環境相は閉幕を待たずに同日未明に帰国した。日本政府の気候変動におけるポジショニングは、コペンハーゲンのCOP15まではある程度着目されたものの、それ以降日本政府が開く記者会見では著しく空席が目立つようになり、排出量世界5位の国でありながら、国際会議での日本の存在感は年々薄くなるばかりだ。

第2約束期間に合意しなかった日本をはじめ先進国側が重視するのは、2020年以降、アメリカや中国、インドなど世界の全ての国に拘束力を持つ、京都議定書に替わる新しい枠組みである。去年の『ダーバン・プラットフォーム』により、2015年までに新しい枠組みに合意することが決まっていたが、今会議でも、その意志を各国が「再確認」する事となった。具体的には、2014年のCOP20までに交渉文書の項目を固め、2015年5月までに文書を作成すること、また2020年までの削減目標の引き上げについて、各国が来年中に2014年の作業計画を国連に示す、など2015年末までの作業部会の日程がまとまった。

しかし、各国が現在の削減目標を達成したところで2100年までの気温上昇を2℃未満に抑えることが不可能であることはすでに数々の調査が明らかにしており、必要とされる削減量と各国の削減目標の差を埋める努力が必要である点については、具体的な改善策は定まっていない。これは、世界的な経済低迷が足を引っ張っており、先進国は、各国削減目標の引き上げに対してだけでなく、発展途上国に対する資金援助についても、消極的な姿勢を示した。先進国は2010—12年に初期支援として約300億ドルを拠出した。2020年までには年1000億ドルの基金を捻出することが決まっているが、その具体的な資金計画は定まっていない。結局今回のCOP18では、2013—15年に、少なくとも2010—12年と同レベルの支援を提供する「努力をする」ということが決まった。

例年COP開幕に前後して、国連機関、研究機関、環境NGOなどが、気候変動に関連する最新研究結果・報告書を相次いで発表する。それを理解すればする程、気候変動の深刻さ、そして対策の緊急性が理解できる。10月末には、温暖化により強大化したと見られているハリケーン『サンディ』が米東海岸を襲い、COP18開催中にもフィリピンが台風『ボーファ』に襲われ、540万人の被災者、600人の死者をもたらした。それでもなお膠着状態が続いた閉幕予定日前日、フィリピンの代表団代表が涙ながらに訴えた。

「『サンディ』や『ボーファ』は、気候変動が実際に起こっていると言う実例であり、緊急処置をとらなければいけないことを明らかにしました。(中略)こうしてここで私たちが決断を渋り、ぐずぐず先延ばしにしようとしている今も、私の国では死者数が増えています。(中略)議長、交渉者としてではなく、フィリピン代表団の代表としてでもなく、一フィリピン人として訴えます。世界各国のリーダーの皆さん、私たちが直面している苛酷な現実に目を向けてください。大臣の方々、私たちがここで出すべき成果は、世界の政界の支配者の願望に沿うものではなく、70億人の要望に応えるもののはずです。皆さんに訴えます。どうか、これ以上の遅延や弁解はもう止めてください。是非、ドーハを、事態を変えるために政治的意思を示した場所として記憶に残しましょう。2012年を、世界が望む人類の未来の為に責任を果たした年にしましょう。ここにいる全ての人に聞きます。私たちでなければ誰がやるのですか?今じゃなければ、いつ?ここでなければ、どこでやるのですか?」

国際交渉で上級外交官が涙することは稀だが、このスピーチはホール総立ちの拍手喝采に終わった。

気候変動の影響を一番受けるのがGDPの少ない小島嶼国や後発開発途上国であることは、周知の事実である。気候変動のコスト配分は極めて不平等だ。前世紀、世界人口の20%にしか満たない先進国が、世界の温室効果ガスの年間排出量の90%を出してきた。だが、それによる気候変動の弊害の75−80%を被るのが発展途上国だ。発展途上国が気候変動に適応するのに、2010年から2050年の間に、年間約700—1000億ドルが必要だとされている。気候変動への適応はお金のかかるプロセスだが、適応しなかったときに人類が見る未来は悲惨だ。今適応の為に1ドル投資することで、将来60ドルの損失を回避することができると言う。そんな議論が繰り広げられる今も、温室効果ガスの世界総排出量は、経済低迷中にも関わらず、中国とインドの排出量激増により今も上昇し続け、今年は昨年比で2.6%増加する見込みだ。気候変動の被害を激しく受ける人たちの現状は切実だ。世界の有力リーダーたちが国内外の利害関係に固執し、毎年決定を先延ばしにするのを途上国がひたすら座って待つ時間は、もうない。

他参考文献:

文:濱川 明日香(Tuvalu Overview副代表理事)