1998年から南太平洋に浮かぶ島国ツバルに軸を置いた活動を行っています。最新ニュースの提供、気候変動防止を主題とした講演会への講師派遣・写真展へのパネル貸し出しを行う他、鹿児島の体験施設「山のツバル」では、スマートな低炭素暮らしの実験に挑戦しています。

気候変動ニュース

例年COP開幕に前後して、国連機関、研究機関、国際環境NGOなどが、気候変動に関連する最新研究結果や活動報告書を相次いで発表する。以下は、今回ドーハで発表された報告書の一部。

Potsdam Institute for Climate Impact Research 記事リンク
  • 衛星データによると、海面は毎年3.2mmずつ上昇しており、これは当初IPCCが予測した2mmより、60%速いスピードでの上昇。
  • 地球温暖化は減速もしていないし、予測されているペースを下回ってもいない。国連が予測するシナリオは今のところ当たっており、国連の予測が誇張だとする希望的反対意見を打ち消すものである。
United Nations Environment Programme (UNEP:国連環境計画) 記事リンク
Policy Implications of Warming Permafrost” レポート原文
  • CO2を大量に含むシベリアとアラスカ周辺の永久凍土が解け始めており、2100年までの地球温暖化をさらに悪化させる恐れ。
  • 数千年凍土の中に眠っていたCO2やメタンが放出されれば、2100年までにその量430〜1350億トンに及び、人間活動による温室効果ガス年間排出量の39%に相当する。
World Bank (世界銀行) 記事リンク
“Turn Down the Heat: Why a 4C Warmer World Must be Avoided” レポート原文
各国が今までに示している削減目標が守られたとしても、2100年には気温が産業革命前より4℃上がる可能性がある。その場合、

  • 陸地では4~10℃の上昇、米国本土の夏の平均気温は+6℃以上
  • 生態系の激変で生物の大規模絶滅、また農業や水産への大被害

などが考えられ、各国の対策が遅れた場合は2060年にもこれが現実になる。+4℃の世界に私たちが適応できるという確証はない。

UNEP(国連環境計画) 記事リンク
“The Emissions Gap Report 2012” 原文レポート
各国の削減目標が、気温上昇を2℃以内に抑えるという国際目標実現のためのCO2排出量(440億トン)に遠く及ばず、「80億~130億トンのギャップがある」と指摘。
United Nations University Institute for Environment and Human Security (UNU-EHS:国連大学環境と人間の安全保障研究所) 記事リンク
Loss and Damage in Vulnerable Countries Initiative” 原文レポート
  • バングラデシュ、ブータン、ギャンビア、ケニア、ミクロネシア連邦の5国で行ったケーススタディによると、適応策を導入しているにもかかわらず、全てにおいて気候変動による何かしらの損失・損害を受けている。
  • 気候変動には、バングラデシュの女性に現れてきているように、生殖機能への健康被害など、定量化できない害もあり、それらを国際交渉で認識する必要がある。
European Environment Agency(欧州環境機構) 記事リンク
Climate Change, Impacts and Vulnerability in Europe 2012” 原文レポート
ヨーロッパ全域において、様々な気候変動の環境的また社会的影響が観測されており、将来的に悪化し得る影響が懸念されている。

  • ヨーロッパで現在見られる影響としては、海面上昇、海洋の酸性化、ある種の生物の北上の傾向、ヨーロッパ南と東において川の流れの減少、洪水の増加、外来種増加、森林生育能力の低下、熱波による死者の増加、などがある。
  • 気候変動は地域を脆弱にし、社会経済的不均衡を生み、気候変動によるコストや損失は増える一方。

シナリオ開発やモニタリングをすることで、気候変動やその影響についての理解を深めることができ、それを適応策のベースとして活用すべきである。

World Meteorological Organization(世界気象機関) 記事リンク
“Provisional Statement on the State of Global Climate in 2012” 原文レポート
  • 2012年1—10月は、1—3月のラニーニャによる寒冷化効果があったにも関わらず、1850年に観測史上9番目に暖かく、5−10月は、史上4番目に暖かかった。
  • 今年見られた異常気象:
  1. アメリカとスペインでの干ばつと山の自然発火
  2. メキシコ、中国、ケニア、ブラジル、ヨーロッパ全域での干ばつ
  3. 世界中で見られた豪雨と台風
  • 北極海氷は、今年8月観測史上最大の減少を見せ、9月に史上最小量を観測。
Climate Action Tracker 原文レポート
2° be or not 2° be
  • 2100年までの気温上昇を2℃または1.5℃以下に抑えることは、まだ技術的にも経済的にも可能であるが、それにはそれだけの政治的野心と、それに伴う迅速なアクションを「今」始めることが不可欠。
  • もし各国が現状の温室効果ガス排出削減目標を引き上げる努力、またはその目標を満たす努力をしないのであれば、今世紀末までの気温上昇は2℃をはるかに超え、後々必要となってくる削減努力はもっとコストが高くなり、または気候変動の影響による損失・損害が、かなり大きなものとなる。
  • 自国が掲げている削減目標を満たすキャパシティーを実際持っている、または創出しようとしている国は少ない。充分な削減目標を掲げている国はなお少ない。
  • 炭素捕獲・貯蔵、核エネルギー、バイオマスエネルギーなどの技術は、適用するか選ぶ余地はいずれなくなり、必要不可欠的に広範囲で展開されるようになる見込み。
UNU-EHS and CARE International
(国連大学環境と人間の安全保障研究所とケア・インターナショナル)
記事リンク
“Where the Rain Falls: Climate Change, Food and Livelihood Security, and Migration” 原文レポート
アジア・アフリカ・中南米8国において、雨量の変化、食糧不足、人口の移動、の関連性について研究。

  • 雨量の依存度が高い農作物が多く、地域での農作物の多様性が少ないエリアにおいて、雨量の変化が移住を決める鍵になるケースが多い。
  • 現段階で移住は一時的、また季節によるものだが、食糧難や雨量の変化に挑む術が不足すればするほど、移住は永続的なものになる見込み。
World Bank (世界銀行) 記事リンク
“Assessing the Investment Climate for Climate Investments: A Comparative Framework for Clean Energy Investments in South Asia in a Global Context” 原文レポート
  • 南アジアにおいて気候変動を考慮した投資をサポートする政策的枠組みを促すため、それぞれの国の民間セクターにおいてどれだけ気候投資の環境が整っているかを示す指標を作成。
  • 大規模な民間投資を促すには、わかりやすく、信頼でき、長期における政策的枠組みが必要。
  • 鍵となる調査結果:
  1. インドは太陽光発電と陸上風力発電に好条件
  2. インドの再生可能エネルギーとエネルギー効率の枠組みは、近隣国と比較してかなり洗練されている
  3. 国家または自治体レベルでの政策・規制・インセンティブの妥当性
Secretariat of the Pacific Regional Environment Programme
(SPREP:太平洋海域環境プログラム)
記事リンク
“Pacific Environment and Climate Change Outlook” 原文レポート
  • 太平洋地域において気候変動が及ぼす環境と経済への悪影響は増え続けており、最大で地域のGDP(国内総生産)の18%に及ぶ。
  • 現在太平洋で見られる気候変動の影響や、懸念される環境問題としては、雨量の変化、海面上昇、水不足、 マングローブ減少、侵入生物種増加、採鉱による科学廃棄物増加、持続可能でない漁業慣行、珊瑚礁破壊などがある。
UNEP(国連環境計画) 記事リンク
“Seeds of Knowledge” 原文レポート
世界中で、草の根コミュニティ参加型プロジェクトが、気候変動への適応やグリーン経済へシフトする中で重要な役割を果たしており、政策の指針になってきているが、さらなる資金投入とサポートが必要。
United Nations Development Program (UNDP:国連開発計画) 記事リンク
“National Climate Funds: Learning from the experience of Asia-Pacific countries” 原文レポート
アジアパシフィックにおいて国家気候変動基金を設計・設立・管理するにあたり、鍵となってくる要素をまとめ、この地域の国々の実体験から実用的な例を用いて報告。

  • 国家気候変動基金がその国にとってふさわしいものかを査定した上で重要な意思決定ができるよう、可能性基準要項を作成し提案。
UNEP(国連環境計画) 記事リンク
“Global Environment Alert (November 2012): Gas Fracking” 原文レポート
  • 天然ガスを抽出する方法として用いられている水圧破砕のテクニックは、環境と人の健康に有害であるとし、この方法を許可するかどうかは、法律、規制、また環境と人の健康に対する影響を充分に再考察する必要がある。
  • 環境へのリスクとしては、空気・土壌・水の汚染、水の使用権をめぐる競争、生態系へのダメージ、生態系の多種多様性また生息環境への悪影響、一時的なガスの放出、などがある。
  • 公衆衛生上のリスクとしては、パイプライン建設時の爆発、空気・土壌・水への有害物質の放出、食糧生産に必要な土地や水をめぐる競争、などがある。
  • 水圧破砕に使う化学物質に関する情報開示要求の欠如は懸念するところであり、それら化学物質による人体の免疫システム・神経系への影響、また癌や突然変異などの可能性を示唆。
Ramsar Convention on Wetlands (ラムサール条約) 記事リンク
“Evaluating the risk to Ramsar Sites from climate change induced sea level rise” 原文レポート
ラムサール条約の下で登録されている沿岸部の湿地帯に関する、海面上昇による浸水についての初期評価報告書。

  • 海面上昇は、全世界的に同じペースで起こるのではなく、沿岸部の深浅、地域の地形、潮の干満によるもので、定期的な浸水が深刻化している場所においては、高潮の影響も受ける。
  • 海面上昇は、人口の移動や農業活動の移転などの二次影響をもたらし、それはさらに、生態系の多種多様性へのダメージなど、湿地帯にさらなる影響をもたらす可能性がある。
Organization for Economic Co-operation and Development
(OECD:経済協力開発機構)
記事リンク
“Fragile States Report 2013: Resource flows and trends in a shifting world” 原文レポート
気候変動や環境破壊の影響がどんどん直接的・深刻化する『脆弱国家』において、各国の経済的・環境的・政治的・安全保障的・社会的脆弱性を分析。

  • 脆弱国家で、国連ミレニアム開発目標に掲げられる項目を一つでもクリアした国はない。
  • 脆弱国家のうち半分は中所得国だが、貧困は脆弱国家に集中しており、所得の不均衡が未だ目立つ。
  • 脆弱国家においては、ODA(政府開発援助)が最大の資金源であり、その後に仕送りと海外直接投資が続く。
  • 脆弱国家は税制の改正を行っており、2000年には平均でGDPの9%を税で賄っていたが、2009年には13%への増加。
  • アフガニスタン、チャド、コソボ、ナイジェリア、スダーンに関しては、ODAの減少が懸念される。
International Energy Agency (IEA:国際エネルギー機関) 記事リンク
“An International Vision for Ocean Energy”
波や潮力エネルギーの容量を、2050年までに337GWに上げることができれば、120万の雇用を創出し、且つ10億トンのCO2を削減できる。
World Bank (世界銀行) 記事リンク
“Adaptation to a Changing Climate in the Arab Countries: a Case for Adaptation Governance and Leadership in Building Climate Resilience” 原文レポート
中東と北アフリカにおける気候変動の影響について調査した結果、適応策の必要性は極めて高く、それには強力な指導力と、国家レベルで優先的に気候変動に関する政策をとる体制が不可欠。

  • 乾燥地帯は近年ますます深刻化する干ばつや鉄砲水に悩まされている。過去30年で、アラブ諸国において5千万人の人が気候関連の災害に苦しみ、計120億米ドルの直接的な損失が出ている。水不足や食糧難を予測し回避するためにも、直ちに行動を起こす必要がある。
  • 世界でも一番水が少ないこの地域において、気候変動はアラブ諸国の人々の暮らしにとってかなりの脅威であり、さらに、既に人口が集中し気候変動に脆弱な沿岸部への不均衡な移住を引き起こす可能性がある。
  • 温暖化は、アラブ諸国における数十年分の貧困削減努力を後戻りさせかねない。
National Oceanic and Atmospheric Administration
(NOAA:米国海洋大気庁)
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“Arctic Report Card: Update for 2012” ビデオレポート
2006年から、大気、海氷、海洋・陸上生態系などこの地域における環境の変化を記録。

  • 今年の表面温度はそこまで極端に高くなかったものの、2012年は、多くの氷融解指標において新記録を出した。例えば9月には、海氷の量が観測史上最小となった。さらに今年は、陸が雪に覆われた期間が観測史上最短で、ある場所では積雪の量が最低、またグリーンランドの氷床の表面融解の量は観測史上最大でその期間最長となった。
  • 雪や氷の変化により、海洋・陸上双方の生態系において生産性を増している。藻類種など新種の生き物も発見され、北極海中央の海氷で初めて、氷が解けて開いた穴に棲んでいるのが確認された。しかし一方、凍土帯の蘚類や地衣類は減少の傾向。

今後も北極圏の生態系における劇的な変化を記録し続けるが、これらの影響をもっと深く理解するには、生態系の多種多様性をもっと詳細にモニタリングする必要がある。

文:濱川 明日香(Tuvalu Overview副代表理事)