単なる「合意」ではなく「野心的な合意」を
11月30日、パリに集まった約150カ国の首脳が「気候変動は差し迫った問題であり、気候変動の悪影響を受ける人々や将来世代のためにも、全ての国が参加する2020年以降の新しい枠組みをここパリで合意する必要がある」とCOP21本会議場から世界に呼びかけた。
これだけの首脳が集まったのだから、何らかの合意はしなければならない。
しかし、パリで必要なのは、パリに集まった首脳たちの顔を立てる単なる「合意」ではなく、気候変動の悪影響を受ける人たちや将来世代、地球を救うための「野心的な合意」である。
すでに、156カ国がパリで合意する予定の新しい枠組みのもとでの削減目標を表明しているが、この削減目標を足し合わせても、世界の平均気温を2℃未満に抑えることはできない。気候変動の悪影響を受けるツバルのような島諸国などが訴える1.5℃未満に抑えるには、全然足りない。
今パリ会議では、新しい枠組みのもとで、各国の目標を定期的に見直しつつ最終的には2℃未満(もしくは1.5℃未満)の達成に導いて行く「仕組み」をどう導入するかがポイントとなってくると考えられる。
しかし、どのくらいの頻度(5年毎?10年毎?)で見直しをする「仕組み」を導入するのか。またその「仕組み」は先進国だけに導入するのか、途上国も導入するのか。また、途上国にも導入するのであれば、削減目標を引き上げるために必要となってくる資金と技術は誰が出すのか、その資金についても見直しをするのかなど合意のために議論しなければならない論点は山積している。
そして、気候変動の悪影響への適応と損害と損失の議論も忘れてはならない。ツバルのような気候変動の悪影響に脆弱な国々は、地球の平均気温の上昇を1.5℃未満にしてほしいと訴えて来た。今回パリ合意で各国ががんばって最終的に2℃未満を達成するのに近い合意ができたとしても、彼らへの気候変動の悪影響は止められないのである。
パリで合意しようとしている新しい枠組みは、京都議定書のように5年ごとに交渉していくものではなく、今合意すると、達成まで10年以上続く枠組みである。すでに世界各地で発生し、今後も発生するであろう、ハリケーンやサイクロン、干ばつなど様々な深刻な気候変動の悪影響への適応策やそれらに対する損失や損害への対応を、バリ合意に入れておかないと、これから10年以上は、それら対策が手薄になってしまう可能性が出てきてしまうのだ。また、一度決まってしまった合意の中に、改正という手続きを使って後から入れることはとても困難なことを考えると、やはりパリできちんと合意しておくことが大事である。
ツバル首相、エネレ・ソポアンガ氏も、スピーチの中で、今年3月にツバルを襲ったサイクロンパムがツバルに大きな被害をもたらしたことに触れ、気候変動の悪影響に対する損害と損失についてもパリ合意に盛り込むことが必要だと訴えた。そして、パリでは、法的拘束力のあるツバルのような国を救うような内容の合意が必要であるとし、ツバルを救えたら、世界を救うことになると強く訴えた。
すでに始まった交渉を見ていると各論点で議論はまとまらず、まだまだ合意には時間がかかりそうな雰囲気である。セレモニーは終わった。「野心的な合意」のためにも今すぐ本格的な交渉を始めなければならない。
※ツバル首相のスピーチ全文はUNFCCCのCOP21サイトからダウンロードできます。
(執筆 川阪 京子@パリ)
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