Cop22の感想と今後
COP22から帰国直後の忙しい中、ツバル国首相のエネレ・ソポアンガ氏に、COP23の感想や今後の展望などをインタビューさせていただきました。(2017年12月16日)
1. COP22でツバルにとって最も重要な交渉議題は?
パリ協定の実施に関すること。これがツバルにとってCOP22において最も重要な議題として考えていたものです。締約国がこれ以上時間を無駄にせず、COP21でのパリ協定採択や早期発効の機運を維持しつつ、実施に移して行くことがもっとも重要な点でした。ツバルにとっては、パリ協定を実施に移すための足がかりを明確にすること。時間を無駄にしないこと。それが重要な点でした。
2. COP22では、パリ協定の実施ルールを2018年に開催するCOP24で採択するということを決めた工程表を採択して終了しましたが、この結果をどのように評価しますか?
COP22の結果は完璧ではありませんが、一定の評価ができると思います。もちろん今回も、政治的な面でも経済的な面においても困難が多く、交渉の進行を遅らせる作戦を実行する国もありました。それでも、最終的には、ツバルとツバルを支持してくれた多くの国々は、意義のある合意に達し、パリ協定を前進させることができました。
具体的には、大きくわけて2つの意見が存在しました。1つは、ツバルやいくつかの国々が支持していた「時間を無駄にしない、そして、パリ協定の実施を遅らせない」という意見です。COP22でも大きな前進をとげ、COP23からパリ協定の実施を開始しなければならないと考えたからです。
もう一つの意見は「COP24までパリ協定を実施しない」というものです。私たちはこの案に反対の姿勢を示し、パリ協定採択や早期発効の機運を維持し、パリ協定という成果を失ってはいけないと強く訴えました。
この意見のズレに見られる問題の発端は、パリ協定がここまで早く発効すると予想していなかったために生じたものでした[1]。正直我々もパリ協定がこんなに早く発効したことに驚きました。2016年11月4日に、パリ協定は発効しましたが、COP22でパリ協定を採択したとき、みんな発効まで1〜2年はかかるだろうと考えていました。しかし、採択から1年経たないうちに発効したのです。我々は自分たちが起こした大きな成功に、驚かされることになったのです。
そこで、ツバルは「この成功によって高まった気運を弱めてはいけない。そして、この成功とともに走り続け、この成功をきっかけに、さらなる前進をしよう」というメッセージを発信しました。
議長は詳細ルールを、2017年に開催するCOP23で決定する案と、2018年に開催するCOP24で決定するという案の2つを提案しました。しかし、ツバルは、もっと早く実施に移して行くことが必要だと考え、COP22で詳細ルールを議論し、同時に決定することができると考えていました。
他にもCOP22では、重要な決定がありました。それは、適応基金[2]に関することです。今回の決定により、京都議定書のもとでできた適応基金が、パリ協定の資金メカニズムとしても使われることになりました。ツバルはこの詳細ルールを2017年に決定をするよう訴えました。2018年を待つ必要はないと考えていたからです。
適応基金は、ツバルのような国々が気候変動の悪影響に適応するための資金的な支援をすることを目的としています。COP22において、京都議定書の実施のためにできた適応基金が、パリ協定の実施のために使うことができるようになりました。これは、ツバルが求めていた事です。適応基金はツバルのような小規模な島しょ国にとって、生存のための基金なのです。私たちは2018年まで待てないと主張しましたが、他の国々は2018年まで決定をまち、2018年からパリ協定の実施を始めたいと主張していました。交渉の結果、適応基金に関する詳細ルールを決める作業についても、2018年に決定することを目指し、これから始めることになりました。
COP22の最も大きな成果は、パリ協定の実施に向けた詳細ルールづくりの工程表ができたことです。この結果において評価すべき点は、2018年に全ての詳細ルールを一度に議論して決めるのではなく、少しずつ詳細ルールづくりの作業が進められる工程表があるということです。このことも、私たちが必要だと考えていた事です。
3. COP22開催期間中に、ドナルド・トランプ氏が米国の大統領に選出されました。この選挙結果は、パリ協定の実施に影響を及ぼすと思いますか?
パリ協定は、すでに発効した法的拘束力のある国際法です。実効性があり目標を達成するために合意した内容を実施していくためのしくみがあります。このような法的枠組みの実施を妨害するのはとても難しいことです。パリ協定は、各締約国が署名・批准し、すでに発効している法的拘束力のある国際法ですから、これを粗雑に扱うことは簡単ではありません。
しかし、私は今回の米国の大統領選挙の結果を完全に尊重します。選挙結果は国民の権利に基づく選択なのですから、その選択を尊重するべきでしょう。我々には、米国国民の意志を干渉する権利はないのです。
米国国民が選んだ大統領と一緒にこの問題にも取り組んでいきましょう。私たちは、米国政府とその国民のことを日本のみなさんと同じように、大切に考えています。私たちはひとつの家族として継続してこの問題に取り組んでいかなければなりません。
みんなで話し合いのテーブルに着きましょう。私は新しい米国大統領をツバルに招待したいとも思います。彼に直接会って対話する機会を持ちたいのです。大統領選挙の後、私は南太平洋諸国の首相の一人として、氏に当選をお祝いする手紙を書きました。
我々はひとつのカヌーに乗っています。人類にはこの他にカヌーはありません。このカヌーを浮かせ続け、前に進め続けなければなりません。世界中の全ての人が乗っています。我々は、リーダーシップを発揮して、カヌーが沈まないようにしなければなりません。もし、失敗してカヌーが沈んでしまったら、米国や日本を含む世界中の全ての人々が、溺れてしまうことになります。これが、私から米国大統領に宛てたメッセージです。
もう一度言います。パリ協定は、すでに発効した法的拘束力のある国際法です。誰もこれを壊す権利はありません。ドナルド・トランプ米国大統領、私たちと一緒にこの問題に取り組みましょう!
4. フィジーが、南太平洋諸国から初めて、来年開催される締約国会議の共同議長になりました。おめでとうございます。今のお気持ちはいかがですか?COP23の共同議長として、南太平洋諸国はどのような役割を果たすべきだと思いますか?
南太平洋諸国から初めて、フィジー共和国(通称フィジー)がCOP23の共同議長になったことは、同じ南太平洋諸国の首相として、とてもうれしいことです。同国が国際社会で大きな役割を果たそうとしていることを、とても誇りに感じますし、ツバルは心から支持します。
今後、私たちは、南太平洋におけるパリ協定の締約国として、COP23の共同議長となるフィジーやフィジーの首相と多くの協議を重ね、出来る限りの支援をします。共同議長としての役割は、COP23会期中だけではなく、今から始まっています。COP23の結果は、南太平洋の人々を保護し、安全を提供する意義あるものになり、南太平洋の国々にとっては、絶好の機会となると思います。
もちろん私もCOP23に参加し、リーダーシップを発揮することを約束します。ツバル国の閣僚と国会議員、そして専門家たちが私を支援してくれます。
日本は、南太平洋の島国ではありませんが、私たちにとって兄弟のような国です。そして、オーストラリア、ニュージーランドも、私たち南太平洋の島国とCOP23の議長国であるフィジーを支持してくれるでしょう。協力してフィジーを支援しましょう。この気候変動に関する交渉は、世界にとってとても重要な、たった一つのカヌーなのですから。他に選択肢はありません。代替案もありません。別のカヌーはないのです。我々は、我々が乗るこのたったひとつのカヌーが沈まないように努力しなければなりません。カヌーの中で、一緒に、私たち全員にとって利益があることのために動きださなければならないのです。もし、このカヌーが沈んでしまったら、将来世代は、私たちのことをとても恥ずべきことをしたと思うでしょう。だから、COP23では、全ての国のリーダーも私と一緒に立ち上ってくれることを望みます。日本、ニュージーランド、オーストラリア、そして、台湾のリーダー達も一緒に立ち上がることができるはずです。
そして、我々は世界に見せなければなりません。南太平洋の国々は、小さいけれど、世界を引っ張ることができるとても強いリ−ダー達なのだということを。
5. 気候避難民の数が増加しています。このような事態に対応するために、ソポアガ首相は、国連総会で、気候避難民の権利を守るための法的な枠組みをつくる決議を採択するように訴えています。具体的にはどのような法的な枠組みを考えていらっしゃるのでしょうか?それは、国際的な枠組みでしょうか?地域的な枠組みでしょうか?それとも二国間の枠組みでしょうか?また、具体的に気候避難民のどのような権利が守られるべきとお考えですか?
私たちが、気候避難民に関する法的な枠組みについて検討することは非常に重要だと考えています。ツバルが訴えている枠組みは、まず、パリ協定の着実な実施です。パリ協定は、すでに発効した、法的拘束力のある国際法です。しかし、実施のためには、たくさんの詳細ルールを決めなければなりません。完全ではありません。そしてそれが全てではありません。パリ協定の条項の多くは、人々を助け守るための更なる仕組みやツールをつくることにつながる道筋を開くものです。だから、ツバルは、気候避難民に関する法的な多国間の合意のベースとなる国連のもとでの法的な枠組みをつくることを訴えているのです。
それは、二国間でもなく、地域間でもなく、国連のもとでの枠組みとして採択される国際的な枠組みです。パリ協定の議定書と考えることができると思います。そして、最終的には、国際法として発効するものです。私たちは、このアイデアを、まず、様々な機会で、訴えていく必要があります。そして、このアイデアについて、理解してもらわなくてはなりません。
私たちは、複雑な国連のしくみを通して、これを実現する方法を見つけ出さなければなりません。国連のプロセスは、まるで森の中を歩くようなものです。はっきりとした道があるわけではありません。しかし、どの道をどう歩くかちゃんと知っておかなければなりません。それはとても難しいことです。私たちがしなければならないことは、このアイデアやコンセプト、それを実現するしくみや制度についての私たちの考えを根気よく説明することです。それが、まず、最初にすることです。
そして、内容です。これが問題なのですが、この枠組みの中での「保護」とは、人々の権利を守ることです。移住を促進することではありません。また、再定住することでもありません。私たちが住む国は、小さい島国だから気候変動の悪影響にとても脆弱です。砂浜がなくなり、土地がなくなり、水や食べ物がなくなります。そして、多くのものがない状態になります。気候変動の悪影響に適応するベースがなくなるのです。海外浸食し続けたら、島は無くなってしまうでしょう。その場合、そこに住んでいる人々はどうなりますか?その人たちがもっている権利はどうなるのでしょうか?
このようなケースは、難民条約のもとでの難民とは異なると考えています。気候変動による避難民が国内の離島から他の島に逃げる場合でも、他国に逃げる場合でも、彼らの権利は国際法のもと守られる必要があるのです。このような考え方が、気候変動による避難民の権利を守るための法的な枠組みの中に含まれるべきです。
6. 英国は2050年までにすべての石炭火力発電所を廃止することを決定しました。しかし、日本はこれから石炭火力発電を48基新設する計画を立てています。この2つの国の方向性の違いをどのように感じられますか?
私が強調したいことは、経済の原則を再生可能エネルギーに焦点をあてた形に、緊急に移行していくことが必要だということです。今後、化石燃料は誰も使わなくなるわけですから、石炭や石油は地中に置いておきましょう。そして、私たちの経済を環境に優しいものに移行していく準備をしましょう。
この移行を行わない国は、これからの経済競争に負けてしまうでしょう。すでに国際社会は、環境コストがかからない再生可能エネルギーの利用が、経済的な利益につながると考えています。そのことは人々の健康にとっても良いという利点もあります。呼吸器系の病気が減り、医療費を抑えることに繋がります。
化石燃料を使用し続けることと、それより環境に優しい、太陽光、風力、水力、バイオ燃料に移行する場合では、どちらが経済的により大きな利益をもたらすのか?よく考えてみてください。
すでに1℃も上昇してしまった地球の平均気温を、私たちはパリ協定のもと、1.5℃の上昇に抑えなければなりません。それができなければ、サイクロンや洪水などの自然災害が多発し、私たちが乗っているたったひとつのカヌーが沈んでしまいます。
日本の決定を尊重しますが、できれば再生可能エネルギーへ移行することを望みます。私たちは再生可能エネルギーへのパラダイムシフトを成し遂げることができます。私はこの方向へ一緒に進むことが出来るはずだと信じています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、つい最近「1.5℃の気温上昇に関する特別報告書」の骨子を決定しました。1.5℃を達成することは世界のリーダーの義務です。しかし、国のリーダーまかせにしてはいけません。将来世代は、立ち上がり、今すぐ行動することを求めなければなりません。私の子どもたちもこの問題に立ち向かおうとしています。将来の子どもたちにこそ、この問題について発言する権利があるのです。
ソポアンガ首相、お忙しいところ長時間に渡るインタビューありがとうございました。
[1] COP21でパリ協定が採択されたとき、パリ協定を実行していくための全ての詳細ルールまでは同時に決めることができず、詳細ルールは、パリ協定が発効した後開催する第1回目のパリ協定の締約国による会議(CMA1)で決定することにしました。ところが、パリ協定が採択から1年経たないうちに発効したため、COP22と同じタイミングで、CMA1が、詳細ルールの内容を検討する前に開催される事態となったのです。そのため、COP22では、パリ協定の実施ルールをどのように検討してくのか、そして、それをいつまでに決めるかが主な議論となりました。
[2]本来は、COP7で採択されたマラケシュ合意によって、京都議定書のもと新しく設立された基金で、クリーン開発メカニズムの認証排出削減量(CDR)を取引する際生まれる利益の一部(2%)が資金源となっています。資金は、主に途上国における気候変動の悪影響に適応するための事業や計画の策定のために使われることになっています。