1998年から南太平洋に浮かぶ島国ツバルに軸を置いた活動を行っています。最新ニュースの提供、気候変動防止を主題とした講演会への講師派遣・写真展へのパネル貸し出しを行う他、鹿児島の体験施設「山のツバル」では、スマートな低炭素暮らしの実験に挑戦しています。

気候変動ニュース

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COP24の結果を受けて

IPCCの1.5℃特別報告書では、仮に2050年前後での気温上昇を1.5℃に抑えることが出来ても2000年前後の平均海水面より6cm〜77cmの海面上昇を予想しています。仮に2℃上昇した場合は16cm〜87cm上昇し、その影響で1000万人が影響を受ける。としています。ツバルをはじめとした島しょ国や低海抜エリアでは、すでに海面上昇の被害に直面しているだけではなく、勢力が大きいサイクロンが通過するようにもなっており、2050年までに人が住んでいられるかどうか?非常に危うい状況です。このような現状を前提に議論しているにもかかわらず、積極的な削減行動に合意できないG20をはじめとする国々は、低海抜エリア、若しくは1000万人以上の犠牲と経済発展を天秤にかけた上で、経済発展=エネルギー多消費産業の利益を優先した、ということができます。

温室効果ガス排出削減の遂行には各国の法整備による、ある程度強制的な対策が不可欠ですが、その政策を決定する各国代表の問題解決に向けた姿勢は消極的であるというジレンマがさらに明確になったCOP24でした。

私たちはツバルの現状を広く国際社会に向けて発信することで、気候変動問題の解決を加速させることを目的に活動しています。今回の結果はその活動そのものがないがしろにされた結果でもありますが、それに屈せずに活動を続けていこうと思います。

ツバルオーバービュー代表理事 遠藤秀一


COP24報告

2018年12月1日から14日まで、ポーランドのカトヴィチェで、第24回気候変動枠組条約締約国会議(COP24)が開催され、2020年以降の国際的な気候変動対策を定めたパリ協定を実施するための詳細ルール(ここではルールブックと呼ぶ)を、一部を除き採択し終了しました。これにより、2020年よりパリ協定は実施フェーズへ移っていく流れができました。

パリ協定は、2015年12月に採択され、2016年11月に発効した2020年以降の気候変動対策を定めた国際的な枠組みです。世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること。そのために、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量を削減に転じさせ、21世紀後半には、温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという長期目標を定めています。そして、この目標を達成するために、全ての国が温室効果ガス排出量削減量を自主的に策定する国別約束(Nationally Determined Contributions /NDCs)を掲げ、それを2023年から5年毎に世界全体で進捗状況を見直すグローバルストックテイク行い、各国の国別約束の達成を強化していく仕組みができました。この過程の中で、各国は約束達成の進捗状況や排出目録の情報を提出することになっています(「透明性の枠組み」と呼ばれる)が、この仕組みや情報提供を実施するための詳細ルールは未定で、COP24ではその詳細なルールを策定し合意することを目指し各国が交渉を続けてきました。

◯COP24の位置づけ

今回の会議は、2018年10月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)1.5℃特別報告書[i]が発表されてから、初めて開催されるCOPでした。そのため「地球の平均気温の上昇を工業化前より1.5℃に抑えることは物理的には可能だがそれが可能な時間は限られている」という科学者より示されたメッセージをCOP24という政治の場がどのように受けとめるのかが注目されていました。また、現在パリ協定のもと各国が自主的に掲げる国別約束(NDCs)の削減量を合算しても2100年までに地球の平均気温は3℃上昇してしまう[ii]という現状を変えるため、地球の平均気温の上昇を1.5℃に抑える道筋を政治的に明確にし、各国の排出削減を深堀していくパリ協定の詳細ルールをCOP24で採択するのかが期待されていました。

◯1.5℃を目指す政治意志が示せなかったCOP24

IPCC1.5℃特別報告書については、島しょ国や後発開発途上国が、締約国は「科学および技術の助言に関する補助機関会合(Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice/ SBSTA)が1.5℃の報告書自体を歓迎した(welcomed)」という積極的な表現にしたいと主張しましたが、アメリカやサウジアラビアなど一部の国が「留意した(noted)」という表現にしたいと反対したため、決定文書に合意できず、結局次の補助機関会合まで議論が先延ばしされることになりました。

そして、2020年に各国が発表する国別約束(NDCs)に対して、各国の気候変動対策を今から強化していくことを目的に開催されてきた促進的対話(タラノア対話)で、様々な国や市民社会などから1.5℃に抑えることの重要性が指摘されものの、閣僚レベルで作成されたルールブックでは「IPCCがタイミング良く1.5℃の報告書自体をとりまとめてくれたことを歓迎する」といった表現に留まり、1.5℃の報告書自体を歓迎するという積極的な表現での合意には至りませんでした。

2100年までに地球の平均気温は3℃上昇してしまうという現状とのギャップを埋めるため、IPCCがタイミングを見計らって発表した報告書を積極的に政治の場で受け止めることはできず、地球の平均気温の上昇を1.5℃に抑える道筋を実現化していく政治的な動きをつくることができないという残念な結果となりました。

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◯パリ協定のルールブックは一部を除き採択

パリ協定のもと各国が自主的に掲げる国別約束(NDCs)の実施状況を定期的に報告し、世界全体で進捗状況を見直していく仕組みの詳細を決めたルールブックは一部を除き合意に至りました。今回合意されたルールブックの主な概要は以下のとおりです。

(1)  各国が自主的に掲げる国別約束(NDCs)の内容

島しょ国やアフリカ諸国など途上国からは、国別約束の中に、適応策、技術・資金支援などの情報を含めることを求めていましたが、排出削減目標と対策を中心に情報を提出することになりました。

(2)  国別約束(NDCs)達成の進捗状況を報告する「透明性の枠組み」のガイドライン

主に排出目録と国別約束(NDCs)達成の進捗状況については、各国が2年毎に報告することとなりました。排出目録については先進国も途上国もIPCC2006年のガイドラインを使う事になり、進捗状況の報告内容には、排出削減だけではなく、適応策、技術・資金供与についても含めることになりました。島しょ国やアフリカ諸国などが求めていた「損失と損害(排出削減対策や適応策を講じてもでてしまう気候変動による損害と損失のことを言う)」の項目を適応策に含める形で、提供する情報の1つとして扱われることとなりました。
報告の内容については、島しょ国と後発開発途上国は、もともとパリ協定において、国状況などに合わせて特別な配慮をすることになっていましたが、今回、先進国と途上国では報告内容に差異を設けないものの、島しょ国と後発開発途上国以外の途上国も、報告内容に柔軟性を持たせる判断が独自に行えることになりました。

(3)  世界全体での進捗状況で見直す(グローバルストックテイク)内容

「透明性の枠組み」のもと提出された情報をもとに、2023年から5年毎に開催する世界全体で進捗状況を見直すグローバルストックテイクでも、パリ協定に明記されていた排出削減目標や適応、資金、技術、能力構築に加えて、「損失と損害」について評価を行うことになりました。ここでは、島しょ国や後発開発途上国が求めていた点が反映された形となりました。

(4)  今回合意ができなかった市場メカニズムの詳細ルール

パリ協定のもとでも、市場メカニズムが使えることになっており、その詳細ルールも話し合われていました。最後にブラジルが京都議定書のもとでできたクリーン開発メカニズム(CDM)をパリ協定のもとでの新しい市場メカニズムとして移管してほしいと主張しましたが、それについてダブルカウントの問題が憂慮され、結局COP24では、パリ協定のもとでの市場メカニズムの詳細ルールを合意することはできませんでした。

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◯新しい動き

気候変動と人の移動に関するタスクフォースの報告と、国際的にも重視されつつある気候変動と人の移動の議論については、COP24開催中に地球環境市民会議(CASA)が発行したカトヴィチェ通信3に筆者が寄稿した記事「パリ協定のルールブックとロスダメ」を参照ください。

◯まとめ

COP24の結果を受け、パリ協定は2020年より実施フェーズへ行く流れとなりました。しかし、現在のパリ協定のもと各国が自主的に掲げる国別約束(NDCs)を合わせても2100年までに地球の平均気温は3℃上昇してしまいます。また、2030年までにこの差を埋めないと、2℃未満も達成できなくなると指摘もあります。1.5℃の上昇に近づけるにはさらに早い段階でこの差を埋めて行く必要があります。と同時に、すでに起っている気候変動の悪影響や、損失と損害についても世界全体で対応していく必要があります。そのためにも、今回パリ協定のルールブックのもと、2年に一度各国が適応や損失と損害に関する情報を提供し、2023年に実施される世界全体で進捗状況を見直すグローバルストックテイクで見直しされることになったことは評価できる点と言えます。

報告書執筆・写真撮影 団体理事 川阪京子

編集 団体代表理事 遠藤秀一

○さらに詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。

・  Proposal by the President Informal compilation of L-documents Version 15/12/2018 19:27, (2018)

・  Climate Analytics, Progress on Loss and Damage in Katowice, (2018)

・FoE Japanブログ,

COP24閉幕– 公平性に欠けるパリ協定の実施指針、気候変動への行動強化にも繋がらず」,(2018)

・  地球環境市民会議(CASA), (2018) COP/MOP、SB通信

・ 気候ネットワーク, COP24カトヴィツェ会議の結果と評価, (2018)

・  WWF ジャパン, COP24「パリ協定のルール作り」に成功!, (2018)

・  地球環境戦略研究機関(IGES), 「進み出すパリ協定の国際交渉:透明性枠組みの役割とは?」, (2016)


[i]最新の科学的な知見をまとめ、いつ地球の平均気温が工業化前より1.5℃上昇するのか?どのような影響があるのか?1.5℃上昇に抑えるにはどのような排出削減経路となるのか?またそれらと2℃抑えた場合とではどのような違いがあるのかなどをまとめた報告書です。環境省(2018)「1.5℃特別報告書 政策決定者向け要約(SPM)の概要

[ii]United Nations Environmental Programmes (UNDP), Executive Summary Emission Gap Report 2018