1998年から南太平洋に浮かぶ島国ツバルに軸を置いた活動を行っています。最新ニュースの提供、気候変動防止を主題とした講演会への講師派遣・写真展へのパネル貸し出しを行う他、鹿児島の体験施設「山のツバル」では、スマートな低炭素暮らしの実験に挑戦しています。

気候変動ニュース

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8月、お盆をまたいで西日本を中心に2週間近く続いた集中豪雨を「秋雨前線」の影響、とすることに違和感を感じた人も多いのではないだろうか?佐賀県をはじめ多くの地域で大規模な災害が発生した上、冷夏に長雨が重なって農産品への影響も大きい。これは秋雨ではなく気候危機による非常事態と表現すべきではないだろうか。

同時期に世界で発生した異常気象の災害を俯瞰してみると、その思いはさらに強くなる。

  • ・カナダで49.6℃、カルフォルニアで54℃。数百人死亡
  • ・ヨーロッパ北部での集中豪雨、216名の犠牲
  • ・カルフォルニアの山火事ディキシーファイアーで約1300平方キロが焼失、8人行方不明
  • ・ギリシャの熱波。首都のアテネで48℃に迫る
  • ・トルコで発生した山火事で8人死亡。数万人が避難
  • ・猛暑に対する警戒警報は、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、イタリア、ルーマニア、セルビアでも発令された。
  • ・イタリア、シチリア島で48.8℃。山火事や気象津波も観測された
  • ・シベリア、ロシア北東部に位置するヤクーチアで火災が発生。永久凍土からのメタン排出が加速している恐れ
  • ・中国で大規模な集中豪雨が続く。四川省で約8万人が避難、河南省で300人以上が犠牲になった。
  • ・アフリカ南東部の島国マダガスカルでは、大規模な干魃により、40万人以上が飢餓に直面している。

 

これだけ大規模な気象災害が同時期に世界各地で発生している状況は、気候危機という言葉の方が的確ではないだろうか。

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渦中に発表されたIPCCのWG1の第6次レポートは、現在までに発生した気候変動は人間活動が原因であると断言した点が今までと異なっている。それによって、地球の平均気温の上昇は2030年に産業革命時点から+1.5℃に到達する見込みとしている。

来年の2月にはIPCCのWG2のレポートが発表される。その中には「種の絶滅、病気の蔓延、生きられないほどの暑さ、生態系の崩壊、海面上昇に脅かされる都市など、これらやその他の壊滅的な気候の影響は加速しており、現在生まれている子供が30歳になる前に、痛々しいほど明らかになるに違いありません。」という文言が明記される見込みであると言う。(※1)

まとめると、+1.5℃まであと10年、2050年までには壊滅的な被害を受ける可能性が高く、その原因は私たち人間の活動から出る温室効果ガスである。と言うことだ。

今世紀末までの気温上昇を2℃以下(理想的には1.5℃以下)に抑えるとするパリ協定の目標を達成するために、NDC(各国が定める排出削減量)という国際公約がある。今年2月に発表されたNDC1次レポートでは「大多数の参加国が個々の排出量削減の意欲を高めているものの、その影響を総合すると、2030年までに2010年比で1%未満の削減しか達成できないことがわかりました。」と報告している。(※2)

追記:国連が9月17日に公開したレポートには『全締約国のNDCをまとめると、2030年の世界のGHG排出量は10年比で約16%と大幅に増加する。IPCCの最新の知見によると、このような増加は、今世紀末までに約2.7℃の気温上昇をもたらす可能性がある。』との記載がある。

つまり、この非常事態下において国連主導のもと各国の首脳陣によって決定された解決策でさえ、ほぼ実行されていない。

その実行を阻んでいる要因として超富裕層の存在を否定できない。Oxfam Internationalが2020年9月に発表した「Confronting carbon inequality(炭素の不平等に立ち向かう)」というレポートでは「世界人口の上位10%の富裕層(約6億3,000万人)が、25年間の世界排出量の約52%を占めている」と報告している。(※3)

既存のエネルギー技術の上に構築された既得権益で庶民には想像できないような生活を謳歌する超富裕層が、温室効果ガスを排出することで得られる既得権を守るための政治への圧力が強大であることは容易に想像できる。

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■排出枠の南北問題

IPCCの最新レポートを受けて、今までと同様の対策を加速していくことが大切だ。という結論が目立つ。まだまだ解決できる!投げ出さずに根気よく頑張ろう!という前向きなメッセージを出していきたいという立場も理解できるが、果たしてそれで間に合うのだろうか?

気候災害はすでに頻発しており、その対策は実施されていない。超富裕層に支配された政治に俯瞰的な政策を期待することもできない。

この状況を考えると、このままでは2050年を待たずに最悪の事態に直面することになるかもしれない。

パリ協定を確実にするためには2030年時点で各国の排出量を50%削減することが理想的だとされている。オックスファムの記事にあった10%の富裕層が活動を停止すれば、あっという間に目標達成だ。が、しかし、そのようなことはまず起こらないだろう。

結局しわ寄せは90%の庶民に押し付けられる。庶民が苦労して削減した排出枠を富裕層がプライベートジェットで使い尽くす。

この南北問題とも相似する搾取の構図を改めない限り、今世紀中に排出量0を実現することは難しい。

「もったいない」を合言葉に、質素は美徳と信じて生活したとしても、その努力の成果は超富裕層が一瞬にして浪費してしまっている。こう考えると、エコライフという言葉が空虚に見えてくる。馬鹿馬鹿しいので好き放題生きてやる!という道を選択すると、減ることのない温室効果ガスによって自らの寿命を浪費することになる。

■対策

超富裕層に搾取されずに未来を確保できる対策はないものだろうか?手前味噌になるが私が10年間挑戦してきた対策を紹介してみたい。

私は1998年からツバルを軸に気候変動防止の活動してきた。ある時、ツバルの友人と話をしているときに「秀一、お前は東京に住んでいるらしいが、地震がきたり、北朝鮮がミサイル撃ってきたりで、大変なことになりそうじゃないか。ツバルのことを心配して活動してくれるのはありがたいが、自分の安全も確保してくれよ」と言われたのがことの始まりであった。

気候変動防止のためには大量生産・消費・廃棄の輪からアンプラグドすることが個人でできる有効な挑戦であることは、ツバルの自給自足の暮らしに触れた時からわかっていた事だった。同時に、資本主義経済においては、貨幣に依存すればするほど温室効果ガスを排出することになる、と講演会などで訴えていたので、実践してみよう!という気持ちになっていた時期でもあった。

全てをお金で処理する大都会、特に東京にいると目的は何も達成できないため、東京脱出のために物件探しを進めた。候補の中から諸条件と値段が釣り合う鹿児島の物件を選んで、移住の準備を始めたのは2010年のことだった。築80年近い山中の古民家は痛みも激しかったために半年近いリフォーム期間を経て、この年の11月に生活の拠点を鹿児島に移すことができた。

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「山のツバル(※4)」と命名したこの古民家での生活の目的は、食とエネルギーの自給自足を目指すことにある。その前提として検討した項目の中で大事だったのは『海抜』。海面上昇や津波などの影響を考えると海抜は高い方が良い。しかも、海抜500m程度の高地であれば平野部から3℃ほど気温が下がる計算になるので、今後予想される気温上昇への対策にもなる。

食料の輸送時の化石燃料使用を減らすためには、主に地産地消、できるものは自給自足が理想的である。幸い集落には耕作放棄地があり、1区画を借りて自然農での米作と畑作に取り組んでいる。カマ一本でできる自然農は二酸化炭素の排出が少なく、さらにその土壌は炭素固定率が高い。

エネルギーに関しては、南九州の山間部には「薪」の利用がいまだに行われており、山のツバルでも、薪ブロ、薪ストーブ、オガクズトイレを導入している。薪は植林を行うことで再生可能エネルギーとなる上に、年間を通して行う薪割りは体力作りにもちょうど良い。移住3年目にはソーラーパネルとリサイクルバッテリーも設置し、生活に関する電力はオフグリットしている。

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都会から離れて、食とエネルギーの自給率を高めてわかったことは、低炭素の暮らしと共に、災害に強い生活拠点を手に入れたということであり、さらに、コロナ禍でリモートワークが当たり前になってからは、ここでの暮らしの利便性は増している。

都会の賃貸料の1年分にも満たない金額で買える土地付きの物件が限界集落には沢山ある。海抜100m以上の場所に土地付き古民家を購入し、食とエネルギーの自給を目指す暮らしは、気候変動対策と暮らしの安全保障を確保しつつ、排出権搾取の輪から抜け出せる対策と言えるのではないだろうか。

■求められる法整備

東京の事務所のスタッフの協力や家族の理解を得られる立場にあり、仕事もリモート対応に馴染みやすい職種であることなど、条件に恵まれていたために実現できた対策ではあるので、万人向きではないかもしれないが、地方創生への相乗効果を狙った法整備が行われ、地方自治体からの魅力的な提案が増えてくれば、都市部からの脱出組も増えてくるのではないだろうか。

コロナ禍でリモートワークの必要性が定着している今だからこそ、リモートワークの推進を企業にただ「お願い」するだけの「やったふり政治」ではなく、企業への優遇策を具体的に定めて、積極的に推進していく政策が必要だ。密集を避けて分散することは感染症や医療崩壊対策の他にもメリットは大きい。特に東京では将来危惧されている災害、例えば直下型大震災が発生した場合、現在の人口密度では救える命の数は限られている。企業も人間も東京にいる理由を失った今だからこそ、抜本的な対策が功を成す機会である。

地方自治体が行っている移住者へ支援策も、さらに魅力のある内容への改善が期待される。移住してからの数年間は生活費の大部分をサポートするベーシックインカム制度を導入するなど、大胆な誘致策を行うべきであろう。ベーシックインカムに地域通過を導入することで地域内での経済対策にもなる。このような優遇措置を早急に行なって人口増加を目指していかない限り、過疎化が進み地方自治体そのものの消滅につながっていくことは分かりきっている。

多拠点居住となる移住者への法整備の配慮も検討事項だ。例えば、2箇所に住民票を登録できる例外措置や、公的書類に多数の住所の記載を可能にするための法整備など、多拠点居住への不安と不便を法的整備を通して解消することで、今よりも気軽に移住に取り組める環境を提供することができる。

いずれにしても、現政権が続く限りは、国民の未来を守るような施策や法整備は望めないので、政権交代は必要条件となるのだが、その兆しは見えてきているのではないだろうか。

■Evacuation procedures

気候危機だけではなく今までの人間活動の影響で、すでに多くの生き物が絶滅している。この絶滅の輪の中に人間という種が含まれないという保証はない。

“unprecedented” 「=前例のない」とIPCCが警告するほどの気候変動に対して、人間という種だけが特別扱いされることはないだろう。

絶滅から逃れるためには、少しでも多く、少しでも長く、未来への命をつなぐ、という視点も重要だ。そうすれば今の人口の数%は転機の時期に到達することができるかもしれない。

非常事態から避難する際には「避難手順」というルールが定められている。

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飛行機がアクシデントで高度を保てなくなり、今まさに酸素マスクが目の前に落ちてきたところを想像して欲しい。この時、脇に座っている子供に先に酸素マスクを装着してはいけないルールがあることをご存知だろうか?

Evacuation procedures(=避難手順)では、一刻を争う事態では、その事態を理解している人間がまず対策を得てから、周りの者を助けるというルールを定めている。

気候危機の非常事態の最中で、自らの安全保障を構築し、余力があれば他人も救えるようになる。そのための有効な対策をとるべき時期にあるのかもしれない。これは一見、自分だけが助かるために何かをする、という空気を読みすぎな日本人としては腰が重い行動であるが、最終的には人類という種が絶滅から免れる方策だと認識して、対策に挑戦する人が幾人かでも増えていけば、未来が少し見通せるようになるのではないだろうか?

 

 

遠藤秀一
ツバル国環境親善大使
特定非営利活動法人Tuvalu overview 代表理事

 

※1 France24 https://www.france24.com/en/live-news/20210623-crushing-climate-impacts-to-hit-sooner-than-feared-draft-un-report
※2 国際連合広報センター https://www.unic.or.jp/news_press/info/41616/
※3 OXFAM International  https://www.oxfam.org/en/press-releases/carbon-emissions-richest-1-percent-more-double-emissions-poorest-half-humanity
※4 山のツバル  https://www.yamano.tv/welcome