ツバルの「ブッ飛んだ」最悪のシナリオ
COP26会場で開催されたサイドイベント『クライメートモビリティへの包括的な地域アプローチの構築:太平洋気候変動移住と人間安全保障(PCCMHS)プログラムから学ぶ』(Building a comprehensive regional approach to climate mobility: learnings from the Pacific Climate Change Migration and Human Security (PCCMHS) programme)に向けたツバル外相によるビデオメッセージが11月8日に公開されました。
このメッセージはAFPなどを経由して配信され、日本でもハフィントンポストなどが概略を取り上げてくれています。
ツバルの外相、膝まで海に浸かりながら、気候変動対策を訴える【COP26】
「常に海面が上昇する中で、ただスピーチを待ってはいられません。クライメートモビリティ(気候変動による人口移動)は最も重要な課題です。明日を守るために、私たちは今日、勇気ある代替策を取らなければならない」と訴えた。
という概要をさらっと紹介してくれているだけで、代替策はなに?? という点に言及できていないところが残念です。
スピーチを収録した動画『Minister Kofe’s video statement: COP26』
このスピーチの背景には、ツバル政府が10月27日に立ち上げた新プロジェクト「Tuvalu’s Future Now Project」があります。気候変動下でツバルが直面するであろう最悪シナリオを前提としたプロジェクトです。海面が上昇しツバルの島が全て水没し、ツバル国が消失してしまう未来に備えることを目標にしています。
政府は次の3つの議題を掲げています。
1、ツバルの伝統的な価値観(olaga fakafenua, kaitasi, fale-pili)に基づいた外交政策
2、ツバルの土地が水没した場合に、水没以前の土地とEEZへの主張が認められるような法的手段の構築
3、土地のない国として機能するために、国家システムをデジタル化したデジタル国家の創設
(1)は2020年の外交政策「TE SIKULAGI」から継承された概念で、他の島嶼国と共通するパシフィックの価値観に基づいた外交を行うことで、コミュニティーの結束を目指していこうとするものです。
(2)に関しては、当団体の代表理事が数年前から講演会などで解説してきた問題です。国家の収入を漁業権に依存しているツバルにとって排他的経済水域(EEZ)を失うことは国家の運営基盤を失うことです。土地がなくてもEEZを主張する法的権限を構築しようとする野心的な目標です。
(3)が実はとてつもない内容なのですが、どのメディアもこの点に関して言及できなかったのは、あまりにも「ブッ飛んでいるから」かもしれません。
現在のツバル政権が発足直後から、サイモン外相はブロックチェーンシステムの国内導入を進めてきました。Nchain、Faiā、Elasがサポートして導入しています。
Tuvalu chasing digital immortality on a blockchain
この記事ではまだ曖昧な表現としてしか発表していなかったので、ツバルはキャッシュレス国家を目指しているのか?などと言われたりしていましたが、まず、国家の情報を全てデジタル台帳に登録し、その台帳をブロックチェーンで管理することで、効率的な運営を目指すことが基本です。
今回の発表の後で、代表理事の遠藤がサイモン外相とチャットして確認したところ、話はさらに大きく膨らんでいて、その台帳の中に、ツバル人の文化的慣習や伝統的な知識、写真、歌、なども全て保存して、最悪なシナリオを迎えた際に、国民が全世界に離散して生活を続けていく場合でも、ツバル政府はデジタル政府として国民へのサービスを行い、国民はどこにいてもデジタル化されたアイデンティティーにアクセスできる!このようなデジタル国家を設立したい!というイメージにまで成長していました。
世界中に場所を選ばず住んでいるツバル国民。ここまで読んでピンときた人もいると思います。結果的に国境を無くしてしまえるのではないか? デジタル国家を追求することはジョンレノンのイマジンの完成を見ることになるのかもしれません。
しかし、アイデンティティーは土着性が強い性質があることは疑う余地がなく、climate mobility(気候変動による人の移動)は避けるべきである。ということが大前提です。
サイモン外相のブログ投稿もご参照ください。
Tuvalu’s Future Now Project: preparing for climate change in the worst-case scenario
外相のメッセージに先んじて発表されたカウセア首相(Hon. Kausea Natano)のCOP26でのスピーチでも、ツバル国内での人工島造成に対する期待をあらためて表明するなど、ツバル政府としての自国での適応策を優先する姿勢に変化はありません。
COP26も終盤となります。今回のGlasgowでのイベントが失敗ではなかった証として、何かしらの数字や決め事を残すべく、徹夜の作業が続くのですが、その結果として残された数字や決め事が実現したことはありません。つまり、今後も気候崩壊は続き、ツバルは沈み続けてしまうのかもしれません。
ツバル国として唯一の望みとなる人工島創出プロジェクト、Funafala Eco island の実現を模索していきます。
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