1998年から南太平洋に浮かぶ島国ツバルに軸を置いた活動を行っています。最新ニュースの提供、気候変動防止を主題とした講演会への講師派遣・写真展へのパネル貸し出しを行う他、鹿児島の体験施設「山のツバル」では、スマートな低炭素暮らしの実験に挑戦しています。

気候変動ニュース

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エジプトで開催されているCOP27の首脳級会合において、ツバル国は「化石燃料不拡散条約」の制定を各国政府に求める提言を行いました。

The Fossil Fuel Non-Proliferation Treaty Initiativeが提言する「化石燃料不拡散条約」とはどのようなものなのでしょうか?

2015年にフィジーで開催された「太平洋諸島開発フォーラム第3回年次サミット」にアイデアのもとがあります。このサミットが取りまとめた「気候変動に関するスバ宣言」の中に「新しい炭鉱を開発することを禁止すべきである」という内容が含まれていました。

また、2017年ボンで開催されたCOP23では、後発開発途上国(LDC)グループが共同閉会声明を発表し、その中で「化石燃料の段階的廃止の管理を行うべきである」としています。

同年、ロフォーテン諸島で、学者やアナリスト、活動家などが集まって書かれた「ロフォーテン宣言」の概要は、

「化石燃料生産国の富裕層は、化石燃料の開発に終止符を打ち、既存の生産量の減少を管理することが緊急の責任であり、道徳的義務である。」

という内容で、この後、ロフォーテン宣言を補強していく議論の中で、「化石燃料は大量破壊兵器」である。という認識と、フロンガスや地雷・核兵器などの危険な物質を条約によって廃止に追い込んできた歴史を、化石燃料の生産管理に応用できないか?という発想が生まれてきます。

この発想を具現化したのがThe Fossil Fuel Non-Proliferation Treaty Initiativeが提言する「化石燃料不拡散条約」です。不拡散条約といっても、ガソリンを拡散するな!ということではなく、石炭、石油、ガスの新規生産(採掘井戸の新規開発、炭鉱開発など)を一切停止し、パリ協定が目標とする1.5Cに合わせて、既存の化石燃料生産を縮小し、再生可能エネルギーへの世界的移行に資金を提供することを目的にしています。

そのために以下の行動が必要だとしています。

a) 化石燃料産業とそのインフラが大きなグローバルリスクであると認識する

b) 化石燃料産業に取り組むための大規模かつグローバルな集団行動の必要性を明確にすること

c) 供給側の対策を実施する責任について国家と関わる新しい機会を実現すること。

d) 特に供給国にとっての公平性の必要性を議論に盛り込むこと

e) 化石燃料依存国のニーズを満たす方法を探ること

f) 複数のローカルなキャンペーンを包括的なグローバルな要求と結びつけること

g) サブナショナル、ナショナル、グローバルレベルでの機会を、より統一的なグローバルキャンペーンに結びつけること

化石燃料を主な国家収益としている国々の機嫌を損なわないように、なるべく大きな集団で一致団結して行動していきましょう。という感じでしょうか?

今回のツバル政府の行動は(b)大規模な集団行動 の一貫です。

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COP27会場で「化石燃料不拡散条約」の制定を求めるカウセア・ナタノ、ツバル国首相

 

COP27会場でカウセア首相は「温暖化した海が、少しずつ私たちの国土を飲み込み始めている。しかし、世界の石油、ガス、石炭への依存は、我々の夢を波の下に沈めることはできない。」と述べたうえで「気温が上がりすぎており、上昇を遅らせたり逆転させたりする時間は(ほとんど)ない。したがって、速効性のある戦略を優先させることが不可欠だ。」として、即効性のある戦略の一つとして、「化石燃料不拡散条約」の制定を求めました。

今まで参加国の既得権益を守ることにも配慮してきたCOPでは、化石燃料生産国にダメージを与える戦略を検討する機会は殆どなかったので、その点ではツバル政府が「化石燃料不拡散条約」制定を求めたことは意味深いことです。

しかし、COPを始めとする国際会議などで、化石燃料産出の削減管理を国連が行うという手法には、生産国や需要者の強い反発があることは容易に想像がつきます。今のCOPの会場でも化石燃料の生産量の管理の手法などを論じることは断じて許されない!というロビーイングが強力におこなれていることと推測できます。

以下は需要者側を代表するIEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)の2022年度のレポートによるものです。

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2050年に向けて若干の需要減を予測していますが、半減などということはまったく考えていない姿が見て取れます。

IEAの加盟国を見てみると、IEAを敵に回すことがいかに困難なことか・・・

[IEAの加盟国 アルファベット順]

豪州、オーストリア、ベルギー、カナダ、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、仏、独、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、伊、日本、ルクセンブルク、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、韓国、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国の30か国(OECD加盟国のうち、IEA非メンバー国は、アイスランド、チリ、ラトビア、リトアニア、スロベニア、イスラエル、コロンビア、コスタリカの8か国。現在、チリがIEA参加申請中)

化石燃料産出をコントロールすることも、関連条約を制定することも、CO2実質0円みたいなことを実現することも、IEA加盟国の顔ぶれを見ても、無理筋だな〜と思えてきます。

絶対できないことを延々と議論しているのではないか?と穿った見方も増えているCOPです。

次のCOP28は原油産出国第7位のUAEのドバイで開催することが決まっています。史上最高に無駄で豪華絢爛なCOPにならないことを祈るばかりです。

ちなみに原油産出量第1位はUSAとなっています。

出典:BP Statistical Review of World Energy 2021 – Oil: Production

1日あたりの原油の生産量の多い国
順位 国名 生産量(1,000バレル/日量)(2020年)
1 アメリカ合衆国(米国) 16,476
2 サウジアラビア 11,039
3 ロシア 10,667
4 カナダ 5,135
5 イラク 4,114
6 中華人民共和国(中国) 3,901
7 アラブ首長国連邦(UAE) 3,657
8 イラン 3,084
9 ブラジル 3,026
10 クウェート 2,686