1998年から南太平洋に浮かぶ島国ツバルに軸を置いた活動を行っています。最新ニュースの提供、気候変動防止を主題とした講演会への講師派遣・写真展へのパネル貸し出しを行う他、鹿児島の体験施設「山のツバル」では、スマートな低炭素暮らしの実験に挑戦しています。

気候変動ニュース

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先週クックアイランドで開催されていた太平洋諸島フォーラム(PIF)において、Anthony Albanese(オーストラリア)首相から、様々な憶測を呼ぶ発表がありました。

発表の内容は「毎年280人のツバル人にオーストラリアで「生活、就労、就学」するための「特別移動経路(special mobility pathway)」を与える。居住のための施設なども用意する。見返りとしてツバル国はオーストラリア政府からの安全保障に関する条件を受け入れる。」というものです。

PIF会期中にオーストラリア首相とツバル国カウセア首相が秘密裏に会談して合意したと発表されています。しかし、ツバル政府がこの合意を全面的に受け入れるのは難しいと考えています。

まず、思い浮かぶのはニュージーランド政府が南太平洋各国と締結している労働者受け入れ制度です。ツバル国にはPAC(Pacific Access Category)として年間75人の労働移住が認められています。

この制度は海面上昇対策であるという間違った認識に基づいた文献や記事が散逸していますが、元々はニュージーランド政府の失策の穴埋めとして実施されているものです。その失策とは、ニュージーランドが労働力不足を補うために、オーストラリア政府とSVCと呼ばれる永住権の等価交換制度を始めたことに端を発しています。ニュージーランド政府はオーストラリア人に永住権を与えれば、オーストラリアからの移住者が増えてニュージーランドの労働力不足が解消される。と目論んだのですが、実際はその逆で、ニュージーランドはより深刻な労働力不足となり、仕方無しに、南太平洋諸国からの労働移住を認めることになりました。

それを踏まえると、今回のオーストラリア政府の発表は労働力不足を補うためではないか?という疑惑が持たれます。また、12月に開催されるCOP(気候変動枠組条約)を意識してのリップサービスの可能性もあります。いずれにしても真に人道支援の為ということはないでしょう。

気候変動の原因は際限なく増長するグローバリズムにあることは明確です。COPではその議論を避け、二酸化炭素排出だけに焦点をあてた言葉遊びを延々と続けていますが、本来であればグローバリズムの縮小を議論する場であるべきです。しかし、参加国がほぼすべてグローバリスムの支配下にある会議では、そのような議論の余地はありません。

わずかですが労働力がオーストラリア国内に増えることはグローバリズムとしては、微々たるものですが悪くない話です。ツバル国としては、見返りとしてオーストラリア政府からの安全保障を受けられるのであれば、悪くない条件でしょう。反面、PACですでに影響が出ているツバル国からの頭脳流出や国内での労働力不足などを考えると、諸手を挙げて受け入れることは難しいだろうと憶測します。

280人の希望者を募って移住を継続して行ってもツバル人全員が移住するには35年かかります。その後、無人のツバル領土はツバル国なのか?オーストラリアが用意する難民キャンプにツバル国民全員が移住した際に、そのキャンプはツバル国領土なのか?様々な疑問が残る提案です。

会議後のオーストラリア首相のインタビューの最後に「この提案はツバル国の文化と国家を保護します」という締めの言葉を懐疑的に受け取った人は少なくないようでした。

https://www.abc.net.au/news/2023-11-10/tuvalu-residents-resettle-australia-sea-levels-climate-change/103090070?fbclid=IwAR02FK1TmC-gf_pjdhauZswDS6cXyEX7C59Y7SLRg1RaqIREaqRxtIwQC9U