気候変動は安全保障問題
NY国連本部で行われた安保理の非公式ミーティング後、マーシャル諸島共和国は、マーシャル諸島のように高度を持たず、国の存在自体が危機にさらされている国家とって、気候変動は安全保障問題であり、安保理は気候変動を国際平和と安全に対する脅威であると認めるべきだ、と訴えた。気候変動が及ぼす安全保障に関する影響について話し合う目的で安保理が開いた今回のアリア・フォーミュラ会議の後、マーシャル政府のトニー・デブルーム氏は会見を開き、「国の安全を保障してくれると私たちが信頼を置くこの組織が、これは安全保障問題では無い、と言うのです」と嘆いた。
アリア・フォーミュラ(Arria Formula)は、ディエゴ・アリア国連大使(安保理ベネズエラ代表)が1992年に開始した非公式の集会で、現場の実際の状況をもっと本質的に理解するため、当事者や専門家など、役立つ情報を持っていると考えられる人材を非公式且つ内密に招いて、安保理との情報共有を進めることを目的とする。安保理のメンバーにより招集がかけられるが、正式な安保理の活動により構成されるものではない。
デブルーム氏は今回パネリストとして参加したが、35年前にも、国連にマーシャル諸島の独立を嘆願しにきた経緯がある。1976年から1986年の間、彼と代表団は毎年国連を訪れた。1986年に安保理は、ついにマーシャル諸島の信託統治終結を許可し、独立した政府の設立を認めた。
「それに関してはとても感謝しています。しかし、私たちは国民の繁栄、進展、良き暮らしを求めてやっと独立した政府ですが、その国民は現在気候変動の影響で自国の存在自体が危ぶまれているこの状態は、決して楽観視できません。」
「35年前、私達の国が再度国として存在することが出来るように、この組織に申し出ました。そしてまた、救援を求めて帰ってきたのです。それなのに、その同じ組織が、今回の申し出を安保理に関係がないとするのは、とても皮肉です。」と彼は言う。この会議からの成果報告書や議論の記録はないが、気候変動は、経済・社会・政治的問題であるだけでなく、安全保障の問題である、という彼の訴えが少しでも多くの参加者に通じたことを彼は期待している。
気候変動を安保理問題にすることに対して否定的だったのは、中国、ロシア、グアテマラなどである。マーシャル諸島を含む開発途上国77カ国により構成されるG77と中国が、UNFCCC(国連気候変動枠組み条約)をこの問題の審議の場として最も適切としたことは驚きだった。「それによって、世界の私たちのたくさんの友人達が、この問題の緊急性を認識していないということが明らかになりました」とデブルーム氏。
マーシャル諸島では海面上昇の影響が深刻化しており、月のサイクルと共に14日ごとに道が冠水する。国の南部では、第二次世界大戦中に軍事基地が置かれていた場所があるが、波が軍需品を剥き出しにし、その地域の住民の生活を脅かしていると言う。国の首都ですら水の配給が必要な状態で、北部においては、井戸水が塩害を受け、飲み水を作る非常時応急セットを配布している事態である。
「水は人間が飲むには適さなくなってしまいました。それどころか、私たちの主食や果実にすら危険な存在です。」
「私はいずれ来る危機を予測しているのではありません。それはすでに起こっており、マーシャル諸島だけでなく、キリバスやツバルなど太平洋に浮かぶ高度を持たない他の島々も既に害を受けています。(中略)最終的に、ロジックが勝ち、人々が、『正当な理由』を理解してくれることを望んでいます。」と彼は言った。
パラオが気候変動問題を国連の国際司法裁判所へ持っていき、安全保障と人権の侵害として訴える件に関して彼は、「その努力はとても興味深いが、話は進んでないようだ」と答えた。
9月には太平洋諸島フォーラムがマーシャル諸島で開かれる。その時に、気候変動の政治的キープレーヤー達を招き、マーシャル諸島での状況を直に見て欲しいと言う。「私たちは、ただただヤシの木の下に座ってヤシの木が倒れるのを待っている訳ではありません。」と、積極的な対策の必要性を主張した。
(オリジナル記事:RMI To UN, Climate Change Is ‘Security Issue’))
(関連記事:UN Security Council Discusses Security Implications of Climate Change)
翻訳:濱川 明日香(Tuvalu Overview副代表理事)