1998年から南太平洋に浮かぶ島国ツバルに軸を置いた活動を行っています。最新ニュースの提供、気候変動防止を主題とした講演会への講師派遣・写真展へのパネル貸し出しを行う他、鹿児島の体験施設「山のツバル」では、スマートな低炭素暮らしの実験に挑戦しています。

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“異常気象の結果、私の国が経験しているのは狂気である。気候の危機とは狂気なのだ。我々はこの狂気を止めることができる。ここワルシャワで。”

COP19(国連気候変動枠組み条約第19回締約国会議)開催直前に観測史上最大規模のスーパー台風ハイエンがフィリピンを直撃。壊滅的な被害状況が明らかになるなか開催されたオープニングの全体会合で、兄弟もこの台風で被災したフィリピン政府代表は涙ながらにこう訴え、犠牲になった人々や被災し何日間も食べていない人々を思いワルシャワで意味ある合意ができるまでハンガーストライキを行うことを宣言しました。彼のスピーチは、会場全体のスタンディングオベーションを受け、危険な気候変動を回避するためには、今すぐここワルシャワで意味ある合意をしなければならないという緊迫感、そして、COP19が果たすべき重要な役割があることが各国政府代表に共有され、議論が大きく進んで行くかに思えました。

・フィリピン代表のスピーチ動画(英語)http://www.youtube.com/watch?v=ObicU5k3ps0

・フィリピン代表のスピーチ前文(英語)http://climate.gov.ph/index.php/news/press-releases/828-cop-19-philippines-national-statement

しかし、議論の進展スピードは上がらず、主要な論点について交渉は行き詰りをみせました。

特に、各国が実施を宣言している削減目標値と、地球の平均気温の上昇を1.5~2℃未満に抑えるために科学が必要だと示す削減量差をどう埋めて行くかという議論を進めて行くことが期待されていた、各国の削減目標値の引き上げに関する議論で、日本とオーストラリアが足を引っ張ります。

11月15日、日本政府はこれまで国際公約として掲げて来た2020年1990年比25%削減目標を撤回し、2020 年の削減目標を「2005 年度比 3.8%削減とする」とすることを地球温暖化対策推進本部(本部長は安倍首相)で決定しました。この目標は、1990 年比では「3.1%増」という増加目標であり、京都議定書の日本の削減目標1990年比6%達成の努力を無にしてしまうことを意味します。国際的な議論の流れに逆行する提案を、京都議定書が採択されたCOP3の時の議長国である日本が行ったことに対し、会場には大きな失望感広がり、各国や環境保護団体からは非難の声が上がりました。ツバルを含む小規模島しょ国(AOSIS)、EU、イギリスなど各国からは緊急声明が出され、海外メディアにも大きく取り上げられました。

この日本の提案は、9月に政権交代したばかりのオーストラリアがこれまでの削減目標より少ない数値を発表しやすくなる雰囲気を作っただけではなく、日本やオーストラリアの後退を口実に一部の途上国がさらなる対策を進めない態度を取るといった状況を作り、全体的な交渉の進展を妨げる結果を招きました。

途上国が必要とする気候変動対策や適応策に対する資金供与は、全体の議論を進める鍵です。COP15で先進国が義務として、2020年までに官民合わせて年間約1000億ドル拠出することが合意されましたが、具体的に資金を出す声も動きもなかなか出てきません。ドーハ会議で1年延長することが決まった長期資金作業プログラムに関する議論では、途上国は、COP19で2020年までの資金を確保するための道筋を明確にするため、具体的な中間目標数値や日程を盛り込むことを条件に、2020 年以降の新しい枠組みへ参加に関する交渉をしましたが、一部の先進国はこれを拒否。気候資金に関する閣僚級会合も開催されたものの、先進国からは具体的な資金の拠出額の提示がなかったため、交渉は難航しました。

今回、日本は、COP19に出席した石原伸晃環境大臣のステートメントの中で、「攻めの地球温暖化外交戦略」と名打って、2013年から2015年までに官民合わせて160億ドル拠出すると発表しました。しかし、日本が2020年の排出削減目標を排出増加目標に置き換えてしまったことに対する各国の失望感や反応が大きすぎて、せっかくの資金の拠出の話はその陰に隠れてしまい、全体的な交渉の進展に影響を与えることができませんでした。

2013年11月23日午後9時、各国の意見対立による数日の徹夜の会議の末、予定されていた会議日程をほぼ一日オーバーし、主要な論点について合意が成立しました。しかし合意内容は、一部一定の成果と評価できるものもあるものの、全体的には開催前や開始時の期待をはるかに下回るものでした。(合意内容については、別記事の[COP19合意内容まとめ]をご参照ください。)

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が9月に発表した最新の地球温暖化に関する科学的知見をもってしても、そして、フィリピンでのスーパー台風による甚大な被害を目のあたりにしても、今回各国がこの問題に対応するための緊迫感を失ってしまい、ツバルなど島しょ国が求めるような危険な気候変動を回避する意味ある合意ができなかったのは非常に残念です。

COP19では、次回のCOP20をペルーのリマで開催すること、2020年以降の全ての国が参加する新しい国際的枠組みを合意する2015年のCOP21をフランスのパリで開催することも決まりました。

昨年のドーハ会議で決定した新しい枠組みの合意期日まで2年。そして、2年後に決まる予定の新しい国際的な枠組みが発効し、実施するのを目指している2020年まで、あと7年あります。透明性ある形での充分な議論は大事ですし、国際会議において、合意期日を決めることはとても重要なことですが、まだ後2年ある。後7年あるという意識で交渉されるのは困ります。

現実には、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が9月に発表した最新の報告書で指摘しているとおり、気候変動の影響はますます顕在化してきています。実は去年COP18会議期間中にも、フィリピンは台風ハイヤンと同じカテゴリー5クラスのスーパー台風ボーファに襲われており、900人以上が命を落としています。途上国だけではありません。2012年10月末には、ハリケーン「サンディ」がアメリカ東海岸を直撃、130以上の死者を出すだけではなく、高潮により地下鉄が浸水、800万世帯が停電、原発が稼働停止するなど大きな被害をもたらしました。気候変動によって引き起こされる異常気象は台風やハリケーンだけではありません。ここに書ききれないことが世界中ですでに起っています。無駄にしている時間はないのです。

フィリピンの代表はCOP19のオープニングの全体会合で、こうも言っていました。

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“UNFCCCの下でのこの条約交渉プロセスは、様々な名前で呼ばれてきました。茶番劇だとか。役に立たないフリークエントフライヤーの炭素排出集中年次集会だとか。いろいろな名前で呼ばれてきました。私たちは、それは間違いであると証明することができます。UNFCCCは、地球を救うプロジェクトだとも呼ばれてきました。今日、明日を救う会議だとも。

我々はこのプロセスを修正することができます。我々はこの(気候変動によってもたらされる)狂気を止めることができます。たった今。この場所で。サッカー競技場(COP19の会場がワルシャワ国立競技場)の真ん中で。そして、ゴールポストを移動するのをやめなければなりません。”

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危険な気候変動を回避するための国際的な枠組みが具体的に実施されるまで、一体、後どれだけの会議が必要なのでしょうか?その為に、後どれだけのお金と排出をつぎ込まなければならないのでしょうか?そして、それまでに後どれだけの被害を出さなければならないのでしょう?

合意に必要なのは会議の回数や犠牲になる人の数ではなく、今すぐこの問題を解決する。危険な気候変動を回避するのだという各国政府代表の強い意思ではないでしょうか。

執筆:川阪 京子

※COP19での成果は別記事[COP19合意内容まとめ]もご参照ください。

参考文献:

Earth Negotiation Bulletin  Warsaw Climate Change Conference

UNFCCC Warsaw Climate Change Conference

Alliance of Small Island States (AOSIS) Web Site

CASA ワルシャワ通信

外務省 COP19CMP9等の概要と評価

外務省 「攻めの地球温暖化外交戦略」の策定

環境省 石原伸晃環境大臣 COP19ステートメント (平成25年11月20日)