1998年から南太平洋に浮かぶ島国ツバルに軸を置いた活動を行っています。最新ニュースの提供、気候変動防止を主題とした講演会への講師派遣・写真展へのパネル貸し出しを行う他、鹿児島の体験施設「山のツバル」では、スマートな低炭素暮らしの実験に挑戦しています。

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【ツバルの人々、海面上昇で2002年から国外避難】と言う記事を2001/10/25に掲載しました。その後、この件に関しては大きな反響があり、一部マスコミ報道では【環境難民】としてニュージーランドへ受け入れられたかのような片寄ったニュースが多く見られました。

当サイトでは、労働移住なのか環境難民としての移住なのか曖昧なので引き続き調査をしてきました。先日某TV局が取材のためにツバルを訪れた時の情報をいただきましたので整理して報告します。

この話題が一番最初に報道されたのは 2001/10/09 BBCニュースです。

http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/1581457.stm

環境省の秘書官へのインタビューを中心とした記事です、この記事の書き出しの文章に注目してください。【The Pacific nation of Tuvalu has secured New Zealand’s agreement to accept an annual quota of its citizens as refugees./ツバル国民の一定数を毎年難民としてNZが受け入れる枠を設ける事でツバルとNZは合意した】とあります。赤く色を付けたrefugeesは避難民、亡命者、難民 という意味があるのですが、どうやらこの単語が後々大げさにとらえられたようです。

このニュースは日本でもNPOやNGOのメールニュースで配信されました、それを受けて当サイトでも情報を公開し、ツバル政府に対して問い合わせを行いました。2002年、コーディネーターとして3回ほど現地を訪れましたが、移住計画は進んでいるようないないような曖昧なニュアンスの情報ばかりで心配していたところ、2002年7月になって国際NGO FoEが取材を行い整理して発表しました。

ニュージーランドへの移住制度(PAC:Pacific Access Category)by FoE Japan

この記事では「この移住制度はニュージーランドの移民政策の一環であり、公式には気候変動と海面上昇はまったく関係ありませんが、その裏では海面上昇が少なからず絡んでいるというものです。」となっています。

背景を説明すると、まずNZは移民の受け入れに対して広く門戸を開けているということが基本にあります。みなさんよくご存じのワーキングホリデイをはじめ、スキルに応じて様々な移住制度が用意されています。ツバル人でも日本人でも一定の条件を満たせばNZへの移住が可能です。その条件は日本人にとってはハードルが低いと言われていますが、ツバル人にとっては厳しい条件です。

ツバルとNZの間には1985年頃から「出稼ぎ移住制度」のようなものが存在していました。ツバルからNZへ3年間を期限とした出稼ぎ労働者を80人だけ許可する、といったモノのようでした。この制度で大切なのは80人という数字で、毎年80人ではなくて、常に80人しか存在しない、という意味です。ですから1人帰ってこないと次の1人が出稼ぎに行けない、出稼ぎに行っても3年で戻ってこなければならない、と言う仕組みでした。

実際はこの制度を利用して沢山のツバル人がNZへ移住しています。3年の期限が過ぎても旅費がないなどの理由で帰国しないツバル人が沢山いたようで、出稼ぎに出たツバル人の大半が不法入国者のような存在になってしまいました。今では、正式に移住した人、学生、出稼ぎ居座り組を合わせると4000人程度がNZにいるのではないか?と言う話しもあるほどです。このような背景があったのでツバル人にとってPAC制度は目新しい制度ではないのです。

しかしいくら移住に関して寛容なNZ政府といえどもこの状況はいただけないのでしょう、これを解消するためにPAC制度に切り替えたのではないか?というのが私の考え方です。同じ年に隣国のキリバス共和国にもPACが導入されましたし、トンガやサモアではもっと以前からこの制度が採用されているとのことです。ということは、PACと温暖化には密接な関係は無いと考える方が無難です。

http://www.foejapan.org/pacific/issue/tuvalu_pm_interview.html

上のリンクは、同じくFoEの取材記事ですが、この取材を受けたコロア・タラケ前首相は息子夫婦がNZへ移住したので(PACとは無関係)首相の任期が切れた後に早速NZへ引っ越してしまったと言う話を2002年の12月、現地のホテルの従業員に聞いた時にはさすがに驚きました。

コロア・タラケ前首相にかわって2002年8月に新しく就任したサウファツ・ソポアガ首相の見解を、2002年12月の筆者の独自インタビューと先日2003年1月のTV局の取材からまとめておきます。

「PACによる移住者は2003年1月現在具体的には決定していない、人間の選考やそのスケジュールはすべてNZ政府によって行われているため、ツバル政府は進行状況すらわからない。昨年の予想では近々(2002/12)には移住が開始されるとの見込みもあったが、このままだと移住者が決定するのは半年先ぐらいまでずれ込みそうだ。」

※PACのパンフレットには、申請者が当選してから3ヶ月以内に移住の申請書を提出しなさい、との記載があります。言い換えれば、申請書を提出する権利を当選で手に入れただけとも考えられる記述のようで、申請書を提出すれば確実に移住出来るかという点はかなり曖昧になっているようです。

「NZへの移住を積極的に国民に推薦していない、ツバル国民の権利として移住という選択肢を用意しておくのも政府の役割だと思っている。同じように、自国に住み続けられるようにするために各国へ援助を要請し対策を行う事はもっと大切だ」

前首相が提議した大国を訴える件に関して

「現在、他国を訴えるというような予定は全くない、ただし、京都プロトコルをはじめとして、温暖化防止や気候変動の抑止を先進国が進んで行うように、引き続き国際世論に訴えていくつもりである」

オーストラリア政府はツバルからの移民に対しては後ろ向きで、「実際に沈んで被害が出てきたらその時はもちろん助けますよ」という見解を表明しています。そこで気になるのは日本政府の対応です。環太平洋の島国同士、貨客船や淡水化装置など物的援助は前向きに行ってきた日本政府ですが、移民や難民の受け入れに関してはオーストラリア政府よりも後ろ向きです。

2003年2月7日の朝日新聞の記事に「難民認定14人 前年比12人減」という記事がありました。2002年難民として認定され日本国内に移住出来た外国人は14人しかいないと言う記事です。250人の申請に対して14人だけ?厳しいですね・・・でも、ちょっとホッとする事も書いてありました。「難民認定の対象ではないが人道的配慮が必要とした40人には在留特別許可を出して定住を認めた」ということです。

人道的配慮、脱北関連でも良く聞く言葉ですが、適材適所で活用して欲しいと思います。

文責:遠藤 秀一 tuvalu@site.ne.jp