COP21 総括
パリ協定採択!ここから始まるゼロ炭素社会への長い道。
●徹夜の交渉の末、採択されたパリ協定!
12月9日(木)、約束の13時を2時間過ぎて15時に開催されたパリ委員会で、パリ合意草案(Version 1 of 9 December 2015 at 15:00)が公表された。前日のパリ委員会では議長が、オプションやブラケッツ(括弧)を減らしたクリーンなテキストを出すと発言していたので、どれだけクリーンなテキストが出て来るかと期待していた。しかし、ページ数は42から29ページに減ったものの、主要な論点については、合意に至っておらず、オプションやブラケッツ(括弧)は残ったままのものだった。
パリ委員会終了後、各国はテキストの内容を確認し、同日20時に再開されたパリ委員会では、各国がテキストに対して意見を述べた。それは延々と続き、終了したのは深夜であった。その後、24時頃から、COP議長のもと、各国の意見が対立している3つの横断的なテーマ((1)差異化、(2)資金、(3)野心的な目標)について、政治レベルでの交渉を行うため、首脳や閣僚が参加するインダバ形式の交渉グループを作り、徹夜で交渉が行われた。(インダバとは、2011年に南アフリカのダーバンで開催されたCOP17で導入された形式の会合で、誰でも率直な意見表明ができる協議方式のこと。)また、意見がまとまっていない損失と損害、気候変動対策実施による悪影響への対応策、前文についても、インダバと平行して、別室で、深夜から交渉が行われた。
10 日(金)朝5時頃会議は終了したが、また9時頃から非公式会合や非公式の二国間協議が継続して行われた。この間、ツバルのエネレ・ソポアンガ首相は、アメリカのジョン・ケリー国務長官と2時間2人だけで会合を持ったり、バン・キムン国連事務総長と会合を持ったりし、損失と損害をはじめツバルが主張する論点について話し合った。そのような会合や交渉を踏まえた新しいバリ合意草案(Version 2 of 10 December 2015 at 21:00)が、21時に開催されたパリ委員会で公表された。その前のバーションより2ページ少ない27ページとなったが、主要な論点については、オプションやブラケッツ(括弧)は残ったままである。その後議長は、会議最終日である11日(金)に最終合意草案を公表するべく、23時30分からインダバソルーション(解決)グループを開催し、3つの横断的なテーマ((1)差異化、(2)資金、(3)野心的な目標)について、最後の妥協を行う交渉を行った。インダバソルーションでは、アメリカのジョン・ケリー国務大臣やツバルのエネレ・ソポアンガ大統領などが交渉にあたった。
しかし、インダバソルーションは、議長(や私)が期待したような妥協の場ではなかった。議長は、すぐにでも3つのテーマについて、ドラフティンググループに別れ、妥協案をもちより、合意に結びつけたかったようだが、各大臣は、新しいテキストについて、自分たちの意見が反映されていない箇所を指摘し、変更するよう求めるといった内容の、官僚が準備したステイトメントを読み上げ続けた。結果、合意に達することはないまま、朝5時を迎えた。
議長は、11日(金)の夜に最終合意草案を公表したかったようだったが、それを断念せざるをえなかった。結局、11日の日中に、議長が、各国の意見の対立のある論点について、非公式に各国と協議することになった。そして、そこでの議論を踏まえて、朝に最終合意草案を出し、その採択を、土曜日の日中に目指すこととなった。
そして、12日(土)12時からフランスのフランソワ・オランド大統領とバン・キムン国連事務総長が同席する形で、パリ委員会が開催された。委員会の開催の最初からもう合意ができたかのような雰囲気で、会場から沸き起こる拍手とともに、双方から各国に最終合意草案に合意することを促すような形で、最終合意草案が公表された。
そして、同日、COP21は、2020年から始まる気候変動対策に関する新しい国際的な枠組みを定めたパリ協定を採択して閉幕した。国の生存をかけ大統領自らが2週間交渉を続けたツバル政府代表団も、パリ協定採択後のステイトメントで、パリ協定を「SIPIKANA Agreement! (素晴らしい合意!)」と表現した。(※SIPIKANA=ツバル語のスラングで素敵だとか素晴らしいを意味する)
●パリ協定の意義と課題
パリ協定のもと、京都議定書では削減目標を持たない中、米、印、日などを含む全ての国が温室効果ガス排出削減対策を行うことや、ツバルのような島しょ国が求めてきた、地球の平均気温の上昇を工業化以前に比べ2℃を十分下まわることを目指し、さらに1.5℃未満に抑えていくための道筋が残されたことは、意義があると言える。そして、そのために、今世紀後半にはCO2などの排出量を実質ゼロとすることを目指すことになったのも大きな意味がある。
また、排出削減対策だけではなく、気候変動の悪影響を最小限に抑えるための適応策についても重点が置かれ、さらに、気候変動の悪影響に対して適応しても出てしまう損失と損害についてもパリ協定のもと、しっかり位置づけられることとなった。特に損失と損害については、ツバルのような島しょ国が最後は大国アメリカをも妥協に追い込んだような形で合意案に盛り込まれた。島しょ国が強く求めていたように、損失と損害が、パリ協定のもとに独立した条項をたてた形でしっかりと位置づけられた点も意義深い。加えて、損失と損害について対策を講じる組織についても、既存の組織であるワルシャワ国際メカニズムを活用する形にはなったが、来年の見直しを経て継続することにもなり、長期的なしくみとなった。
しかし、課題もある。パリ協定では、全ての国が温室効果ガスの排出削減目標を提出し、それらを5年毎の見直すことが義務となり対策を強化していくことになっているが、その目標達成は義務ではない。また、達成できなかった場合の罰則規定もない。現在各国が提出している排出削減目標を足し合わせても、地球の平均気温の上昇は2.7℃上昇してしまう。パリ協定ができたことで自動的に1.5℃未満に抑えられることになったわけではないのだ。ツバルや地球そして、未来の子どもたちの運命は、日本を含む各国の削減目標とその達成にゆだねられているという事実に変わりはない。
●パリ協定は炭素ゼロ社会のはじまり
パリ会議期間中、ツバル政府が掲げて来たスローガン「Save Tuvalu To Save the World」は、パリ協定によってプロジェクト化されたといえる。このプロジェクトの別名は、炭素ゼロ社会プロジェクトだ。このプロジェクトが絵に描いた餅で終わってしまわないように、まず、日本を含む各国がパリ協定を批准し、きちんと発効させなければならない。そして、プロジェクトが失敗に終わらないように、今世紀後半にはCO2などの排出量を実質ゼロとすることを目指し、地球の平均気温の上昇を工業化以前に比べ1.5℃未満に抑えていくため、日本を含む各国が排出削減目標の確実に達成し、さらに強化していく必要がある。工業化以前に比べ、地球の平均気温の上昇は1℃となりつつあり、一刻も早い対策の実施と強化が求められる。
そういった流れにいち早く対応しようとしている企業がある。ユニリーバは、2030年までに事業運営を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す「カーボン・ポジティブ」を達成すると発表した。日本国内の全事業所で使用する電力を100%再生可能エネルギーに切り替えた。
また、ルノー・日産アライアンスの会長兼CEOカルロス・ゴーン氏も、フォーブス紙に、パリ協定の採択を受け、低炭素経済へのスムーズな移行には、ビジネスコミュニティーのサポートが不可欠とし、電気自動車への移行など自動車業界もその実現にコミットすると述べた。
他にも、大手金融機関のシティーグループ、モルガン・スタンレー、ソシエテ・ジェネラルなど9社も石炭関連産業投融資の撤退方針を表明している。
世界のビジネス界は、パリ協定のもと始まったゼロ炭素社会の実現に向けた新しい競争に勝つため動き始めた。これからこのような動きはもっと加速していくだろう。
他方、日本では、パリ協定採択後初めて開催された環境省と経済産業省による合同審議会で、日本商工会議所の代表が、今世紀後半に世界全体の排出量を実質的にゼロにする目標を、地球温暖化対策計画に盛り込む事に反対するなど、日本のビジネス界の消極的な動きが報道されている。
ゼロ炭素社会実現に向けた新しい競争に勝つ為には、2020年からとなっている同協定の発効を待たずに、今すぐにでも行動を起こさなければ間に合わない。世界の政府と世界のビジネス界が目指すゼロ炭素社会実現に向けて日本も本気で取り組む気があるのか、その姿勢が今問われている。
(執筆:川阪 京子)
● 参考文献
・Unilever“Unilever to become ‘carbon positive’ by 2030”(英文)2015年11月
・ユニリーバプレスリリース「100%再生可能エネルギーに切り替えへ」2015年11月
・ Forbes” Renault-Nissan Chief Carlos Ghosn: It’s Time To Clear The Air” 2015年12月
・ ESG ニュース「【アメリカ】モルガン・スタンレーとウェルス・ファーゴ、新たに石炭からの投融資引き上げを公表」2015年12月
・NHKニュース「温室効果ガス排出削減目標 5年ごと見直しへ」2015年12月
・朝日新聞「COP21で光ったツバル」2015年12月31日
・Energy Democracy 「パリ協定をどうみるべきか?」2016年1月14日