インターンシップを通して見たツバルの気候変動対策
当団体理事の川阪京子氏(写真左端)が今年の2月にツバル政府の気候変動政策災害調整部へインターンとして業務参加しました。ツバル政府がどのよう気候変動対策を進めているのか?レポート形式でお伝えします。
1. 初海外学生インターン
2008年に、ツバル・オーバービューが実施する「ツバルに生きる一万人の人類」プロジェクトに参加し、ニウタオ島に2〜3ヶ月滞在して以来、8年ぶりにツバルに行って来ました。現在、大阪大学の国際公共政策研究科(OSIPP)にて社会人大学院生として勉強しており、気候変動の影響を最も受ける国のひとつであるツバル国がどのようにこの問題に取り組もうとしているのか興味があったので、今回は2016年2月16日から約6週間ツバル政府でインターンシップをしました。
ツバル政府では、これまで海外から学生インターンを受け入れたことがなく、私が初海外学生インターンでした。私は、気候変動問題に関心があったので、ツバル政府の首相官邸直属の気候変動政策災害調整部(Climate Change Policy & Disaster Coordination Unit(CCPDCU))で仕事をすることになりました。この部署は、2015年3月にサイクロンパムによって大きな被害がでたことをうけ、2015年4月に首相主導で作られたばかりの気候変動対策の専門家と災害対策の専門家が一緒になったチームで、6人(私を含め7名)の職員が所属しています。首相官邸の直轄で、国連の気候変動枠組条約への参加や、ツバルの気候変動政策、そして、ツバル国内の災害対策を実施しています。
2. 2016年はツバルの気候変動対策にとって大きな年
今年2016年は、2015年の12月に採択されたパリ協定の署名と批准が始まる年で、2016年4月22日にNYにある国連本部で開催された署名式では、ツバルはパリ協定に署名、そして批准書を寄託しました。また、ツバル国内の動きとしては、2012年から2021年の10年間のツバルの気候変動政策(Te Kaniva)の中間見直しと、その気候変動政策の実施のため最初の5年間の行動計画を定めたTuvalu National Strategic Action Plan for Climate Change and Disaster Risk Management(NSAP)が終了したため、その評価が行われます。
今年の10月頃にはツバル気候変動サミット(National Climate Change Summit)の開催が予定されており、そこでそれぞれの見直しに関する最終的な報告書を公表するため、様々な作業が行われます。私は、NSAPを評価する7つの作業部会やTe Kanivaを見直すNational Review TeamのTerms of Reference案やそれぞれの評価チームが使う評価シート案の制作、ツバルにおける気候変動データベースの制作に携わりました。
3.8年ぶり3度目のツバルで発見した変化
○進む適応策
8年前に比べて気候変動の影響は顕在化してきています。その影響に対して適応するために、ニュージーランド、EU、日本など海外からの支援によって様々な事業が行われていました。
第二次世界大戦中、キリバスのタラワに南下してきた日本軍と戦うため、米国がプラカ(タロイモの一種)畑を埋め立てて滑走路を造成する際に土砂を採取した穴(ボローピットと呼ばれる)は、満潮時(特に潮位が3mを超えると)海水とともにゴミや家畜である豚の排泄物などが流れ込み、洪水のようになり人家にも大きな影響を及ぼしていました。それが、昨年、ニュージーランド政府などの支援で埋め立てられ、人々の生活状況が改善されていました。
また、海岸浸食が進んでいた政府庁舎前にも今年始めから行われた養浜事業によって美しいビーチができ、人々の憩いの場所となっていました。フナフチのマネアパ前のビーチも日本政府の支援で養浜事業が行われ海外浸食を食い止める取組がなされていました。
○温室効果ガス排出削減対策の実施
ツバル政府の気候変動の原因となっている温室効果ガスの排出は、世界全体の0.000005%以下しかありませんが、その削減対策にも積極的に取り組んでいます。ツバルは、2015年パリ協定の合意に先立ち、国連気候変動枠組条約事務局に提出した国別目標案(Intended Nationally Determined Contributions /INDC)の中で、2025年までに発電部門からの温室効果ガス排出量をほぼゼロにするとしています。これまでの発電は主にディーゼル発電によるものでしたが、2015年末までに、EUやNZなどの支援により、ニウラキタ島以外の全ての島に、太陽光発電パネルと蓄電池が設置されました。これにより、首都フナフチを含むと、ツバル全発電量のうち約24%(Tuvalu Electric Company提供による資料より筆者算出)が太陽光発電で発電されることになりました。
○災害対策「ツバルサバイバル基金」
私がツバルに滞在していた2月、3月は、サイクロンのシーズンで、ちょうど、南半球で観測されたサイクロンとして史上最大規模で、最大瞬間風速約90メートルを記録したサイクロンウィンストンが隣国フィジーを直撃し、大きな被害を出しました。フィジーの北側にあるツバルも強い雨風に見舞われ、国内の船の運航が滞りましたが、飛行機は通常どおり運行され、特に大きな被害はありませんでした。
しかし、今後サイクロンの激しさは増すことが予測されており、2015年3月11日にツバルを襲い国民の約45%が被災したサイクロンパムや、同年の年末に発生したサイクロンウラなど、ツバルにおけるサイクロンによる被害は増加してきています。
これらに対応するため、ツバル政府は、「ツバルサバイバル基金 (Tuvalu Survival Fund (TSF))を作りました。この基金には、すでにツバル政府から500万豪ドルが拠出されており、今後は海外からの災害支援などもこの基金に集約していく予定です。基金はツバル政府が国会非常事態宣言を出した災害(サイクロン、洪水、津波、干ばつなど)による被害に対して行われる緊急支援物資の提供や被害復興支援などに使われます。今年からの運用を目指しています。
○ツバルの抱える問題
このように、ツバル政府は首相のリーダーシップのもと、気候変動問題に対してあらゆる手段を講じて対応を試みています。しかし、国内に産業がなく、ツバル信託基金の運用益、インターネットドメイン「.tv」の使用権収入、入漁料、船員など海外労働者からの送金など国外からの収入に大きく依存しているツバルでは、前述した気候変動対策に関しても他国の援助によってしか実施できない現状があります。
また、人々のライフスタイルも変化しています。特に私が今回滞在した首都のフナフチ環礁フォンガファレ島では、都市化が進み、全人口約1万人のうち60%を超える人々が居住し、人口増加に伴う住居不足や家賃・物価の高騰、そして、ゴミ問題が深刻化しています。さらに、車やバイクの保有台数の増加や、パソコン、テレビ、冷蔵庫など家電製品の保有数量増加に伴う電力消費量の増加も顕著になってきています。
ツバルの再生可能エネルギーとエネルギー効率化のためのマスタープラン(Enetise Tutumau 2012-2020)では、再生可能エネルギーの導入目標だけではなく、フナフチにおける省エネ目標(2012年から2020年までに-30%)も掲げられています。ツバル政府は、海外援助によるハード面での対策の実施だけではなく、同時にツバルの人々(特にフナフチに住む人々)の意識改革にも力を入れて行かなければなりません。
4.8年経っても変わらないもの
天気が良ければ夕方ラグーン側に毎日見られる、しびれるような美しい夕日や、ツバルの人々の笑顔は8年前と全く変わっていませんでした。いつまでもこの美しい島でツバルの人々が笑顔で生活続けるにはどうしたらいいのでしょう?
パリ協定において、世界は今世紀後半に人間活動による温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指すことになりましたが、パリ協定の効力が発揮される以前に、大きなサイクロンがツバルに直撃する可能性は非常に強いと思われます。その場合、強制的に国外に避難しなければならないかもしれません。しかし、現在国際的には気候変動の影響や自然災害で、強制的に国外に避難した人を保護する仕組みはなく、ツバル政府も最近になってこの問題についても世界各国が対応するように主張し始めたところです。
気候変動問題は、ツバルのような小さい国の小さい政府にとって、自国の努力だけでは解決することができない大きな問題です。しかし、これからもずっと美しい夕日を見ながらツバルの人たちが笑顔で愛する人たちと楽しい時間を過ごしていけるように、というシンプルな願いを叶えるため、ツバル政府はあきらめず、いろんな機会をとらえて懸命に働きかけています。
ツバルの人たちが幸せに暮らす未来は、私たちも幸せに暮らす未来です。ツバルの人たちがずっと笑顔でいられるよう、日本にいる私たちも、一緒に気候変動問題を解決してくため、様々な機会をとらえて働きかけて行きましょう。
執筆:川阪 京子(ツバルオーバービュー理事)
参考文献
・ Government of Tuvalu,“Intended Nationally Determined Contributions”2015
・ Interntaional Climate Change Adaptation Initiative, Pacific Climate Change Scinence Program, “Current and Future Climate of Tuvalu”2011
・ Government of Tuvalu, Climate Change and Disaster Survival Fund Act 2015