1998年から南太平洋に浮かぶ島国ツバルに軸を置いた活動を行っています。最新ニュースの提供、気候変動防止を主題とした講演会への講師派遣・写真展へのパネル貸し出しを行う他、鹿児島の体験施設「山のツバル」では、スマートな低炭素暮らしの実験に挑戦しています。

現地事務所通信

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近年ツバルでは、気候変動の影響により、ツバルへ大きな被害を与えるサイクロンが増え始めています。ツバルの人たちの話によると、従来は年に1度サイクロンが接近・上陸する程度でしたが、近年では雨期のサイクロンシーズンにかかわらず、1年を通して年に数回サイクロンが接近・上陸するようになり始めたとのことです。

この地域は従来、サイクロンはツバル近海で発生し、徐々に勢力を拡大し南下をし始めるので、ツバルに大きな影響を与えるサイクロンは少ないものでした。しかし、近年サイクロンはツバルからより赤道に近い地域で発生し、ツバルへその勢力を発達しながら接近するような傾向にあります。ツバルのような海抜の低い島嶼国では、サイクロンの影響は他の国と比べてもより甚大なものになります。

リーナ・ピシーさんの事例

ここで1つの事例を紹介します。リーナ・ピシーさん(47歳)の家は2015年12月31日から2016年1月1日の年末年始にかけてツバルに多大なる被害をもたらしたサイクロン・ウラの被害を受けました。彼女の家はサイクロンで屋根と窓ガラスが飛ばされてしまいました。これまでで経験したことがなかったほど怖かった経験だったそうです。

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リーナさんの話によると異変を感じ始めたのが、2015年が終わり、2016年になったばかりの深夜、日付が変わった頃で、すでに彼女の家は強い雨と風で床上浸水していました。リーナさん家族は、衣服・食料などの荷物をまとめ始め、漏電防止のため電気を消しました。午前3時頃には、家の周囲にある木が倒れたような大きな音が聞こえたので、何かが倒れてきても大丈夫なよう、家族全員が家の端に集まりその場をしのいでいました。

午前4時40分頃にまた大きな音がなり、室内にいるのにもかかわらず雨に濡れたように感じたので、ふと上を見上げてみると家の屋根の片方の端が外れ、屋根が上下に揺れ始めていることに気づきました。屋根が上下に揺れる中で、屋根の一部が家の中に落ち、家族の何人かはそれが体にあたり、けがを負いました。その後屋根は完全にはがれ、家の前の道路まで飛ばされました。

ツバル政府のサイクロンへの対応の遅れ

家族は朝になり、警察、赤十字、災害対策事務所に訪れ、数日後には首相にも災害の援助を直談判しました。しかし、政府の対応は非常に遅く、2月初旬になってようやく建設省から一時的な住まいを建設するための資材の提供を受けたのみでした。現在家族は、住む家がなくなったので、一時的な住まいを建設しつつ、11人だった家族は3つに分かれて隣人の家で生活しています。

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ツバル国首相室気候変動・災害調整部署自然災害管理局災害対策室長のスメオ・シル氏によると、ツバル政府の自然災害への対応が遅れている原因として、主に災害に対する資金が不十分であることが挙げられ、他国からの援助も受けているが、それでも足りていないとのことでした。またスメオ氏は、来年度の国家予算の自然災害に関する費用を増額することができれば、状況は改善するだろうとも述べましたが、実際に増額するかは不透明のようです。

ツバルは、昨年のサイクロンパムでも直撃は免れたものの、大きな強風と高潮が押し寄せ、大きな被害を受けました。しかし、完全復興には至っておらず、未だに援助を待っている人もいると言われています。リーナさん家族は、1990年代初めに発生したサイクロンオファにより家のそばにあった小屋が壊されています。その時の保証もまだ受けていません。現在も壊れた小屋は基礎を残して放置されたままです。リーナさんは、政府の災害への対応の度を過ぎる遅さに怒りと失望の念を持っています。

ツバルの未来は?

近年、気候変動の影響により、勢力を持ってツバルへ接近してくるサイクロンの数が確実に増えています。前のサイクロンの復興支援が終わらないまま、次のサイクロンの影響を受ける。この事態にツバル政府も手に負えず、支援の手が回らない事態が続いています。中には、数年前にサイクロンの被害を受けたにもかかわらず、現在でも支援物資が届かず復興がままならない家庭もあります。いつか来るかわからない支援をただひたすら待っているツバル人も多くいます。気候変動が進行し、サイクロンの数が増えると、確実にツバルは人の住めない国となってしまうでしょう。

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日本でも気候変動の影響が出始めています。ツバルと比べると、私たちの国での影響は小さいものかもしれません。しかし、ツバルの未来を考えることは、同時に私たちそして地球の未来を考えることにつながります。私たち1人1人が現在の生活を振り返り、無駄を無くしていくことが必要です。これ以上気候変動を進めないためにも、私たちが今できることを探し、行動していきましょう。

松浦 克彦(ツバル現地事務所ボランティアスタッフ)